松井今朝子「吉原手引草」☆☆☆

吉原手引草

吉原一と謳われた花魁・葛城の失踪の謎を解き明かそうとする男が、引手茶屋の内儀、遣り手婆や幇間、女衒など葛城の周りの人間たちに尋ねて回ったインタビューというような構成で綴られた、一人の女の実像と虚像を描いて第137回直木賞を受賞した傑作時代小説です。

最後まで葛城本人が登場しない構成が、この謎解き時代小説のような作品にピタリと嵌まっていて、葛城に関係する人物たちの一人称による語りによって徐々に彼女の生い立ちや性格などが分かってくる仕組みが上手いなぁと思いました。

読み進むうちに妙に葛城の事が気にかかるような進め方で、こうなれば作者の思惑に見事にはまってしまいます。

名妓と謳われ、身請けも決まり、失踪する理由など見当たらない花魁がなぜ突然姿を消したのかという謎を中心にして、実に良く考え抜かれ構成された作品で、最後に明らかになる真実も納得出来る内容です。

ただ性格的に軟弱な管理人は葛城の芯の強さに共感するのが難しくて、今ひとつスッキリしない部分もありました。


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