北原亞以子「赤まんま-慶次郎縁側日記」シリーズ ☆☆☆

赤まんま-慶次郎縁側日記

「三日の桜」「嘘」「敵」「夏過ぎて」「一つ奥」「赤まんま」「酔いどれ」「捨てどころ」の8篇を収録した人情時代小説シリーズの慶次郎縁側日記の8作目。

相変わらず江戸時代の市井に生きる人々を描きながらも、現代に通じる人生の機微を炙す作品が多くて、特にこの短篇集は夫婦の有り様を描いた作品が粒揃いという感じがしました。

中でも表題作「赤まんま」は良かったですね。

労咳で死んだかつての婚約者(と言っても、ハッキリと約束を交わした訳ではないけど)を想って独り者を通してきた商人に好きな女が出来た。

むかし「赤まんまの簪が欲しい」とつぶやいた女に「いつか必ず買ってやる」と約束した貧しい男は、商いに成功して素晴らしい赤まんまの簪を手に入れるが、その時には女はもういなかった。

赤まんまの簪に込められた思い出に囚われた男は、年月が経って新しく好きな女が現れたのに、死んだ昔の恋人の事を思うと思い切った事が出来ない。

彼の心の葛藤に対して慶次郎が言う言葉が良いですねぇ。

しかし北原亞以子の作品は何故胸を打つのでしょうかね。

人が生きていく上で起るさまざまな問題に対して、安易な回答が用意されているわけでもなく、全てがハッピーエンドというわけでもない現実を踏まえながらも、どこかそれでもにじみ出る暖かさが良いのでしょうね。


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