獅子文六「てんやわんや」☆☆☆

てんやわんや

終戦後の混乱期を、恩師に命じられて戦争の跡が殆ど無い四国ののんびりとした田舎町に逃れて過ごした元新聞記者の一年間を描いた懐かしい話題作です。

村松友視氏の解説に有るように、「てんやわんや」と聞いても漫才の「獅子てんや、瀬戸わんや」なんかがパッと思い浮かぶ世代も減ってきていますから、この作品を知っている人も当然少ないんでしょうね。

「伊豆の踊り子」や「人間失格」のような、読んだことはなくとも誰でも知っている文学作品というわけでなく、いわゆる滑稽小説というか大衆小説の傑作です。

しかし獅子文六もそうですが、石坂洋次郎とか源氏鶏太とか、昔の大衆文学作家の作品は、文章にどことなく格調が有るように思います。

登場人物は相当デフォルメされていて、現実には到底居そうにない人物を面白おかしく描いていますが、どこか品が良い気がします。

それは作家が持っているというよりも、あの時代の人々が持っていた雰囲気なのかもしれません。

この作品に描かれる四国の田舎町の情景は、文章を読むだけで何となく目に浮かんで来ます。

やはり文章に力が有るんでしょうね。

大衆小説の古典的名作ですが、何となく心が和んでゆったりと楽しめる作品です。


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