石川英輔「大江戸神仙伝」☆☆☆

大江戸神仙伝

長年勤務した製薬会社を辞めて物書きとなった速見洋介は、雑誌編集者の尾形流子の前で突然別の世界にタイムスリップしてしまった。

そこは今から150年以上昔の文政5年のお江戸日本橋、突然の出来事に訳も分からずに混乱する洋介に話しかけてきたのは、日本橋に住む医師の北山涼哲で、涼哲は洋介を自宅に招いて世話をしてくれる。

涼哲宅で洋介が何気なく使う現代から持ち込んだ品々を見て、涼哲は洋介が神仙の世界から来たと勘違い。折しも江戸で流行っている脚気の特効薬を作っては貰えないかと洋介に頼み込んできた。

以前製薬会社に勤務していた洋介は、ビタミン不足からくる脚気治療用に、米ぬかと酢と鉄鍋からビタミンB1を抽出して涼哲に渡し、涼哲はその薬を使って日本橋でも一二を争う酒問屋井筒屋の跡取り息子で幼馴染の忠太郎を瀕死の状態から救い出し、名医との評判を得る。

跡取り息子の命が救われた井筒屋は洋介を宴席に招き、洋介はそこで深川芸者のいな吉と出会い良い仲になるのだが・・・。


幾らなんでも未来から来た人物を神仙という風に思うかね?とは思いますが、未来で得た知識をうまく利用して江戸時代に生きる洋介を通して眺める江戸の世界が魅力的です。

突然のタイムスリップで江戸住まいとなる洋介ですが、しばらくすると江戸から東京に戻る能力も生まれ、江戸にいな吉、東京に流子と二人の妻を得て、優雅な二重生活を始めます。

しかしこの作品の主眼は、洋介のそういう羨ましい状況ではなく、現代人の目から江戸時代を見つめ直して、江戸時代の優れたところを再評価している点です。

エコロジーという意味では、物を大切に使って再利用しないものがないくらい使いまわした江戸時代。当時から世界でも有数の大都会でありながら、水道などの技術も同時代の欧米より進んでいた社会を見事に描いています。

最近はそうでもないけど、この作品が書かれた頃には江戸時代は全てが遅れていたというような見方をする人が多かったと思います。

この作品はそんな事はないんだと具体的に指摘していて、多くの職人さんが優れた工芸品を作り、自然と共生しながら、人々が自分の分を弁えて暮らしていた当時の風景を鮮やかに浮かび上がらせています。

石川英輔の小説はどこかアマチュア的な印象がありますけど、そういうところが又魅力的ですね。

気軽に楽しめる時代SF小説でシリーズ化していますが、20代の頃に初めて読んでから管理人はとても気に入っています。

      

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