近藤史恵「サクリファイス」☆☆☆

サクリファイス

子供の頃から陸上競技で才能を発揮し、インターハイにも優勝して将来を渇望されていた白石誓(チカ)。

しかし競技で勝つことに価値観を見出だせなかったチカは、ヨーロッパでの自転車ロードレースをTVで見て感動したことから、推薦が決まっていた大学を蹴って自転車部のある大学に進み、卒業後プロの自転車ロードレースチームの「チーム・オッジ」と契約してプロ・レーサーの道に進む。

個人競技のようでありながら、実際はチーム競技であるロードレース。そこでエースのために汗をかくアシスト役が自分の性に合っていると感じているチカは徐々に力をつけ、山道では日本を代表する選手でチームの絶対的なエースである石尾に次ぐ実力を発揮するようになる。

ストイックなまで自転車競技に打ち込む石尾。そんな石尾を尊敬するチカだったが、チームの先輩選手から、かつて石尾がエースの座を脅かす新人を事故に見せかけて大怪我を負わせ、再起不能にしたと聞かされる。


管理人もヨーロッパでは自転車ロードレースが大人気だということは知っていましたが、競技の内容などはそれほど詳しくなく、ただ自転車を漕いで速さを競う競技だと思っていました。

この作品を読むと、自転車ロードレースがもっと奥深いチーム競技だと言うことが丁寧に説明されていて新しい発見でした。

一流のアスリートにも係わらず競技に勝つこと自体に喜びを感じていなかったチカがロードレースに惹かれた理由は、エースを勝たせるために自らを犠牲にするアシストの存在と、空気抵抗の恩恵を公平に得るために、ライバルたちが交代で先頭を走るという紳士的な暗黙のルール。

エース、ひいてはチームを優勝させるためにアシストすることに喜びを見出すチカの成長と、チームのエース石尾の穏やかならぬ噂の真相を中心にして物語は進行します。

ヨーロッパで開催されたレース中に発生する謎の事故と、その真相から浮かび上がるスポーツマンの挟持と覚悟が感動的で、文章も読みやすく、とても面白いスポーツ青春小説だと思います。


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