白石一郎「戦鬼たちの海」☆☆

戦鬼たちの海

温暖で恵まれた環境の中で暮らしていたため、織田信長に代表される時代の新しい流れに乗り遅れていた志摩の豪族たち。

そうした時代の中で、信長に仕え織田水軍の長として頭角を現していく九鬼嘉隆の生涯を描いた戦国時代小説です。

白石一郎の作品で描かれる海の男たちや海戦の場面を読むと、本当に海の香りがしてくるようです。

白石一郎の時代小説の中で特に面白いのは、こうした若くて何かを持っている人物が逆境を跳ね返して成長していく姿を描いた場面で、そういう点ではこの作品は前半の方が面白いです。

功成り名を遂げた後の嘉隆を取り巻く環境にはどこか寂しいものがあって、特に実在の戦国武将がモデルなだけに、歴史の事実を思わずにはいられません。

戦国の世の中では甘くては生きていけない現実が有るなかで、爽やかとは言えない九鬼嘉隆の凄まじい生涯が見事に描かれています。


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