ジェフリー・フォード「白い果実」☆☆☆

白い果実

世界幻想文学大賞を受賞した、まるで夢のなかを歩いているような比喩に富んだ独特の雰囲気があるファンタジィです。

とりとめのないストーリーと世界観と幻想を紡いで、こんな風な物語に仕上げてしまうこの作家の想像力はすごいと思います。

独裁者ビロウが自らの幻想を具象化した都市ウェルビルトシティで暮らすビロウお気に入りの観相官クレイは、何者かに盗まれた白い果実を探しだす任務を命じられ、辺境にある属領アナマソビアへと向かった。

アナマソビアは魔物が跋扈する森の近くにある田舎町で、この世界のエネルギー源である青い鉱物の産地だが、この鉱物と長く接する鉱夫たちは何故か鉱物化していき、そうした鉱物化した鉱夫が彫像のように町に置かれている。

人間の容貌を観察して、その人物が本来持つ性格や運命を導き出す観相官が辺境の町に来たということで、クレイは住民たちに熱狂的な歓迎を受け、この地で観相学を学ぶ美しい娘アーラに教えを請われる。


こういうファンタジィ小説は紹介するのが難しいですね。

荒筋を書いても作品の雰囲気は伝わらない気がします。

誰もが独裁者ビロウを恐れている社会、摩訶不思議な観相学、人を敵視する魔物、ビロウから与えられる麻薬を常習しているクレイ。

観相学を極めた傲慢不遜な官吏クレイが出会う不思議な出来事の数々と、彼の不手際から起こる大事件、そしてクレイの凋落と再生などが描かれた作品で、読み進むうちに物語の世界に深く沈んで行く感じです。

始めはイヤな奴だったクレイが人間性を取り戻していき、残忍な独裁者ビロウと対峙する物語は一応決着しますが、この作品は3部作になっていて、残り2作の「記憶の書」「緑のヴェール」を読まないと本当には決着しません。(読んでも決着は微妙かな)

単純なエンターティメントではない奥行きのある驚くべき幻想小説です。


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