池井戸潤「陸王」☆☆☆

陸王

埼玉県行田市の足袋製造業「こはぜ屋」の社長・宮沢紘一は、重要取引先の大徳百貨店が和装品の売り場面積を3割減にするという話から、自社の先行きに一段と不安を感じた。

百年の歴史を有する老舗と言っても、「こはぜ屋」は従業員20名ほどの零細企業で、業績はジリ貧、同業者は業績不振と後継者不足が相まって廃業が相次ぎ、宮沢自身も先の展望が見通せない。

そんな中、大徳百貨店のシューズ売り場で、今人気だという裸足感覚で走れるという5本指のランニングシューズを見たことから、足袋製造のノウハウをランニングシューズに生かせないかと思いつく。

財務を担当する大番頭は否定的だが、メインバンクである地銀の担当者・坂本はスポーツ・ショップを経営するランニングのインストラクター有村を紹介してくれ、足袋から派生したランニングシューズを面白いコンセプトだと薦めてくれた事から、宮沢は起死回生の事業として、ランニングシューズ「陸王」の開発プロジェクトチームを社内で立ち上げる。

しかし資金もない中、右も左も分からない新事業を立ち上げる事には多くの困難が待ち構えていた。


直木賞を受賞した「下町ロケット」などと同様、地道に真面目に頑張っている中小零細企業が、傲慢な大企業をむこうに回して、様々な難問を一つずつ解決していきながら目標を達成していくという、胸のすくような企業小説です。

下町ロケットの佃製作所と違って、こはぜ屋には特許もなければ卓越した技術もありません。

更には社長の熱意も当初は怪しい感じで、何となく思いついたものの然程自信があるわけでもない。

ただ、そうした中で、このままではダメだと判断して前に進む事を決断し、前に進みながら色々な人たちと巡り合って、力を借りて、新しいことを成し遂げていく姿が感動的です。

現実には中々こんな風に上手く行くとは思えませんけど、でもこういう小説を読むと勇気を貰えるような気がします。

結局のところ、世の中そんなに捨てたもんじゃないという事ですよね。

とても面白かったです。


このページの先頭へ