柳広司「ジョーカー・ゲーム」☆☆

ジョーカー・ゲーム

昭和12年の秋、帝国陸軍結城中佐の発案により設立された諜報員養成所「D機関」。

その学校に入学する学生は、原則として軍人ではなく一般の大学を卒業した超優秀な男たちで、軍人とは異なり「死ぬな、殺すな、とらわれるな」を信条として、己の存在を消して敵地での諜報活動に赴くように教育される。

スパイ活動を潔しとしない陸軍内の反発から十分な予算を与えられない中で、魔王と恐れられる結城中佐の指導を受けた天才たちは、報酬を得るためでなく、国家や家族や名声のためでもなく、ただ誰にも負けないという自分自身のプライドを懸けて危険なゲームに参戦する。


2009年の第30回吉川英治文学新人賞、第62回日本推理作家協会賞を受賞したスパイ・ミステリィの短編集で、5篇の作品を収録しています。

表題作「ジョーカー・ゲーム」は、「D機関」設立の経緯と、陸軍参謀本部からD機関に出向した青年将校の物語で、D機関に入学した学生たちの異能や、スパイ養成機関に対する反発などが良く描かれています。

「幽霊 ゴースト」は横浜の英国総領事のスパイ疑惑を調査するD機関卒業生の物語。

「ロビンソン」はロンドンの写真館経営者を隠れ蓑にして諜報活動を行う卒業生と、英国諜報部との対決の話。

「魔都」は様々な勢力が跋扈する魔都・上海で起きた爆破事件と、憲兵隊内部の裏切り者を巡る物語。

「XX ダブル・クロス」はドイツとソ連のダブル・スパイだった男が密室で死んだ謎を追う物語で、ラスト・シーンが印象深い作品。


スパイ小説ではあるけど、あまり緊迫感も感じませんし、騙し騙されという物語もなかったような印象です。

この作品に限らず、諜報戦というと人間性をなくした非情な人物同士の暗躍が描かれますけど、どうにもそういう人間像に現実感がなさすぎて、個人的には違和感が強すぎて、ピンと来ない感じがします。

ただこの作品は、単純にエンターティメントとして楽しめました。


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