朝井まかて「福袋」☆☆☆

福袋

江戸時代の市井の庶民を主人公にした8編の人情時代小説の短編集です。


「ぞっこん」はお寺の筆供養で燃やされようとしている筆たちを擬人化して描かれた、筆を使う職人の技を描いた作品で、視点の切り替えがなかなか見事でした。

「千両役者」は大部屋からなかなか抜けられない役者を描いた作品で、なかなか目が出ない役者が、それでも役者としての意地を通そうとしている姿を描いています。

「晴れ湯」は江戸時代の湯屋の娘の物語で、家族の有り様が独特で面白い。

「莫連あやめ」は古着屋の娘と、兄の元に嫁いできた同い年の嫁さんの話で、これはオチが良かった。

「福袋」は出戻りの大食いの姉と、家業の乾物屋を継ぎながらも家業が嫌いな弟の話で、管理人が考えていた展開とは大分違う物語になっていました。この短編集の中では皮肉な話になっています。

「暮れ花火」は天才女絵師と、彼女に仕事を依頼する男の物語。男の純情と女心の難しさと言ったところでしょうか。後味は悪くありませんけど・・・。

「後の祭」は神田祭の「お祭掛」になってしまった家主と、店子の若い衆を描いた愉快な話。若い頃から遊びもせずに堅実に固く生きてきた初老の家主が、意に反して面倒な役目を引き受けざるを得ないのがおかしく、更に家賃を滞納するろくでなしの若者が家主をサポートする様子もおかしい。良かったですね。

「ひってん」はその日暮らしの若者が、ひょんなことから元名人の櫛職人から大量の櫛を譲り受けて・・・という話で、江戸の最下層の庶民の明日のことなど考えない気楽な生活が妙に活き活きしている作品です。


山本周五郎や藤沢周平のような重々しさはありませんけど、なかなかユニークな江戸情緒が味わえる市井物の時代小説でした。


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