トマス・H.クック「熱い街で死んだ少女」☆☆☆

熱い街で死んだ少女

1963年5月、人種偏見に満ちた南部の町アラバマ州バーミングハムの公園で、一人の黒人少女の死体が発見された。

土の中に無雑作に埋められた遺体には、暴行された形跡があった。

バーミングハムの街は今、マーティン・ルーサー・キング師の公民権運動デモで揺れている。

「この街では黒人の殺人事件なんかは珍しくないぜ」という状況下にあって、市警の部長刑事ベン・ウェルマンは捜査に乗り気でなかったが、人種騒動の真っ最中に黒人少女の殺人事件を捜査しないのはまずいと判断した上司の命令により捜査担当を命じられてしまう。

黒人蔑視の風潮の強い町で、ベンの進める捜査は難航するが・・・。


無残な死を遂げた愛らしい黒人少女への同情を示す事すら躊躇われる当時の南部の状況と、白人だけではなく黒人の中にも強く残る根深い偏見を描きながら、殺人事件の謎を追う完成度の高いミステリィです。

殺人事件の謎を追ううちに明らかにされていく人々の偏見と、普通の庶民が心の中に持っている人間としての良心を巧みに描いて、なかなかの傑作だと思います。

しかし、人間が持つ業の重さを描いた「記憶シリーズ」のドンとくる暗さと比べると、この作品はテーマは重たいものの、そこまでの暗さはあまり感じませんでした。

ベンの捜査が進むにつれ、人種差別に対する著者の思いを反映するかのように物語が進展するのが感動的です。

アメリカの暗部の人種偏見と黒人からの搾取について、決して豊かでない白人たちの境遇も交えながら描き、単なるミステリィに留まらない人間ドラマとしても傑作だと思います。

しかしクック作品は面白いけど、やっぱり重いなぁ。。。


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