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C.L.アンダースン「エラスムスの迷宮」の感想です。

C.L.アンダースン「エラスムスの迷宮」☆☆

エラスムスの迷宮

地球を中心とした人類の共同体パクス・ソラリスが銀河系に君臨し、周辺の植民星域と共存している遠い未来が舞台。

平和を守るために組織された統一政府軍の守護隊が監視する中で、負債奴隷制度を持つエラスムス星系で守護隊の指揮官ビアンカが殺害される。

ビアンカが託した最期のメッセージによれば、エラスムスでは密かにパクス・ソラリスに対する開戦の準備が進み、今や一瞬即発の危機にあるという。

既に引退した守護隊の元野戦指揮官テレーズは、亡きビアンカの指名を受け現場に戻ることを要請される。

100年ごとの更新はあるものの不死の身となり愛する家族と暮らしているテレーズだったが、ビアンカから昔受けた恩を返すため、そして不毛な戦いを未然に防ぐため、家族の反対を押し切って危険な任務への復帰を決意する。


2009年のフィリップ・K・ディック記念賞受賞作です。

エラスムス星系の負債奴隷制が何やら今の世界でも事実上ありそうな制度で、そういった因習に囚われた閉塞した社会の状況が、現在の世界をどことなく暗示しているところなど、示唆に満ちているSFミステリィです。

エラスムスの実質的な支配者が考えた複雑な陰謀に対して、その謎を解き明かそうと奮闘するテレーズが快刀乱麻の活躍をするわけではなく、迷走しながらも少しずつ解決に向かって進んでいく姿を描いています。

そういう点にリアリティを感じる、読み応えのある正統的なSF小説といった印象の作品でした。