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スタニスワフ・レム「ソラリスの陽のもとに」の感想です。

スタニスワフ・レム「ソラリスの陽のもとに」☆☆☆

ソラリスの陽のもとに

不可思議な海に覆われた惑星ソラリスの観察ステーションに心理学者のケルビンが新しい駐在員として赴任してきた。

しかし彼を出迎える者はなく、先任の駐在員たちは他人と接触を持たずに自室に一人で閉じこもっている。

駐在員たちの怪しい言動と、時折見かけるステーション内にいるはずのない人物の影。

やがてケルビンにも不思議な現象が現れ始め、なぜ駐在員たちの様子がおかしかったのか、その理由が判明するのだが・・・。


書き出しからしてひんやりとした雰囲気でサスペンスに富んでいます。

ソラリスの海の観測ステーションに降りたケルビンに対する先任者のスナウト・サルトリウスの不思議な対応や、自殺した同僚のギバリャンの謎。そして観測員以外には誰も存在するはずのないステーション内を歩く正体不明の黒人女。

一体全体これはどういう事なのか?

人類とは全く異質な意識を持つ知性体であるソラリスの海は、人の心の内面にある最も印象深い出来事から、人間そのものを創造する不思議な存在だった。

ケルビンの前には、むかし彼とのささいな諍いが原因で自殺した恋人ハリーが現れる。

海がケルビンの意識から創り出した存在であるにも係らず、ハリーにはハリーとして生きてきた意識があり記憶があり、その記憶からケルビンを心から愛している。

しかも海が創ったハリーは片時もケルビンの側を離れることが出来ない。

しかし自殺したハリーと一緒にいるケルビンは、かつての自分の行動を思い出してつらい。その上'人間ではない何か'のはずのハリーをどこかに閉じ込めようとしても、抹殺しようとしてもハリーは蘇り、いつの間にかケルビンの近くにいる。

自分は何者かと考えるハリーもつらい。

ケルビンと一緒に過ごす事に喜びを感じながらも、自分の存在がケルビンに与える負の影響は彼女を傷つける。

しかし自分ではコントロール出来ない衝動から、ハリーはケルビンの姿を追い求めてしまう。

管理人が初めて読んだ時は強い衝撃を受けました。傑作SFだと思います。

この小説は、人類と人類とは全く異なる価値観を持つ知性体との接触の問題を描いた、いわゆるファーストコンタクト・テーマのSFですけど、果たして「知性」とは何か、「認識」とは何か、「人間」とは何か、「愛」とは何かを深く洞察している小説だと思います。

これぞSFといった作品です。

ちなみに1972年にソ連で、2002年にはアメリカで、それぞれ映画化されています。

ソ連製の映画は隠れた傑作映画としてSFファンの中で高い評価を得ていますけど、ジョージ・クルーニー主演のアメリカ映画の方は管理人も観ましたが今ひとつの出来栄えでした。

尚、管理人が読んだ版は絶版で、ハヤカワ文庫からはポーランド語原典からの完全翻訳版「ソラリス」が新しく出ています。こちらの方は残念ながら管理人は未読です。