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山田太一 「異人たちとの夏」の感想です。

山田太一「異人たちとの夏」☆☆☆

異人たちとの夏

妻子と別れて静かなマンションの一室で暮らすシナリオ・ライターの原田英雄は、同じマンションに住む女性ケイが淋しいからとシャンパン片手に部屋に訪れてきた時、邪険に追い返してしまう。

離婚のゴタゴタ、友人だと思っていたプロデューサーの裏切り、行き詰った仕事などで、原田の気持ちは珍しく荒れていた。

そんな鬱状態の原田は、ある時自分の生地である浅草に十数年ぶりに出かけるが、そこで彼が出会った夫婦は、子供の頃に死別した両親と不思議なくらい良く似ていた。

父親にそっくりな男の何もかも心得ているような態度、原田よりも年下でありながら、まるで母親のように原田の面倒をみてくれる女。

彼らと過ごす時にこみあげてくる懐かしさと久しぶりの家族の団欒の景色。

「また来いよ」と誘ってくれた声の温かさ。

その後、原田の気持ちは少し明るくなり、以前冷たく追い返してしまった同じマンションのケイとも親しくなり、恋人のような関係になっていく。

何日かが過ぎて再び浅草に行き、またあの夫婦に会った原田は、夫婦の姓も原田だと知る。

二人と過ごす時間は懐かしく心地良いが、どこか奇妙で怖いような気もする。

知人に最近やつれているのではないかと言われたりもする。

そんな、まるで怪談のような出会いを知ったケイは「もう決して彼らと逢わないで」と懇願した。


第一回の山本周五郎賞受賞作です。

現代の怪談というべきひと夏の不思議な体験を描いて、しかも管理人の予想をはるかに超えた展開を見せてくれます。

亡くなった両親との不思議な触合いには何とも言えぬ温かい情感が溢れていて、管理人は既に亡くなった自分の両親の思い出を重ね合せたりしてしまいました。

愛憎が交差する切なく哀しい物語ですけど、読後感は清清しいものが有ります。

最後のセリフ「どうもありがとう」が本当に胸に染みる作品です。