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東山彰良「流」の感想です。

東山彰良「流」☆☆

1970年代の台湾、台北市の進学高に通う葉秋生は、両親と祖父母、叔父、叔母と暮らしている。

祖父の葉尊麟は共産党に敗れた国民党の兵士として戦後に台湾に流れてきた荒くれ者で、同じような境遇の仲間たちとツルミながら、戦時中はいかに勇敢に戦い、多くの敵を倒してきたか自慢げに話すような人物だった。

教養もなく、やることは破天荒で乱暴だったが、大陸で死んだ兄弟分の息子を引き取って実の子同然に育てるような優しさも持っていた。

秋生はそんな祖父が好きだったが、蒋介石が死んだ直後の混乱の中で祖父が何者かに殺されてしまう。

ショックを受ける家族。しかし犯人の目星はつかず、祖父の死を契機に秋生の人生もあらぬ方向に転がっていく。


第153回直木賞を受賞した台湾を舞台にした青春ストーリーです。

祖父の死に深い衝撃を受けた青年の、転落と再生と失意と希望と愛などを、様々なエピソードから描いた小説で、舞台が台湾という点が斬新ですけど、どこかで読んだことがあるような印象を受けてしまうのは、こういった青年特有の無鉄砲さのようなものは、国や時代を問わずに描かれているからでしょうか。

そうした中で、祖父殺害の真実は奥行きがあるテーマですけど、管理人は恨みを胸に秘めて復讐の機会を伺いながら、長い時を自分を偽って暮らしていくという事が、どうにも感覚的に理解できなくて、何か違うような感じがしてしまう。

しかし葉秋生の高校でのいざこざや、親友とつるんでバカらしいことをしたり、好きな娘に何も出来なかったりする青春には共感できますね。

管理人は台湾には行ったことがありませんが、この小説を読んでどこか懐かしい気がするのは、やはり作者の筆の力なんでしょう。

読み返すことはないと思いますけど、面白い小説でした。