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A・J・クィネル「燃える男」の感想です。

A・J・クィネル「燃える男」☆☆☆

燃える男

50歳を目前にした元外人部隊の優秀なアメリカ人兵士クリーシイは、生きる目的を失って酒浸りの日々をおくっていた。

そんな彼にイタリア人実業家の娘のボディガードをしないかと依頼が来る。

初めのうちは、こんな状態じゃ誰一人守れないと難色を示したクリーシイだったが、元傭兵仲間の説得に負けボディーガードを引き受けることになる。

彼が出会った11歳の聡明で美しい少女ピンタは、無口で他人に畏怖感を与えるクリーシイの優しい内面に気がつき、子供らしい策略を巡らしてクリーシイの心を惹きつけ、いつしかクリーシイに生きがいのようなものを与え始める。

しかしそんな矢先、クリーシイの面前でピンタがイタリアン・マフィアに拐われ、クリーシイは銃撃されて重傷を負い、そして数日後陵辱されたピンタの死体が発見される。

ここに怒りに燃えたクリーシイの復讐劇が始まる。


まるで心を持たないかの様な非情で危険な男が、無垢な少女との心のふれあいの中で人間性を取り戻していく。

二人は気が合った。男の人生は虚しく少女は寂しかったから・・・。

そんな少女が彼の目の前で何者かに誘拐され惨殺される。卑劣な人間の欲望で奪われた若い命。

この時の彼の無力感と怒りがストレートに伝わってきます。

この無情さがあってこそ、その後のクリーシイの無謀で時には残忍な復讐劇を応援してしまいます。作品中でクリーシイとマフィアの対決を知ったイタリアの人々が「頑張れクリーシイ」と応援するように・・・。

鈍った身体を昔の傭兵時代のように研ぎ澄まされたものに鍛え直すためクリーシイが向かうマルタの美しい島と、そこで出会う誇り高く純朴な人々。そんな環境で暮らしているうちに、人付き合いが苦手で不器用だった男が本来の魅力を発揮していく姿も素晴らしいです。

この小説は新潮文庫から出た後、一時は絶版だったようですけど、集英社文庫で復刊されたようですね。もっとも又絶版になったみたいですけど。

A・J・クィネルの冒険小説はどれも面白いけど、中でもこの作品は管理人一番のお気に入りです。

またこの小説は、デンゼル・ワシントン主演でマイ・ボディガードという邦題で2004年に公開されていますが、正直言って何であんなに駄作を作ったんだろうとクリーシイ・ファンの管理人は思いました。原作の持つワクワク感・高揚感のようなものが映画には全く有りませんでしたね。