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今野敏「隠蔽捜査」の感想です。

今野敏「隠蔽捜査」☆☆☆

隠蔽捜査

物語は主人公のキャリア警察官僚・竜崎伸也が新聞を読む場面から始まります。

竜崎は東大法学部卒で警察庁長官官房総務課長という重責を担うエリート・キャリアで、警察のマスコミ対策を一手に担い、その手腕は上司にも部下にも認められている。

自分は出世コースに乗った優秀な官僚だと自認し、同じく優秀な部下のことは評価しながらも、キャリアは全て自分のライバルだと考えているため心から信用することはない。

大学は東大以外を認めず、東大受験には失敗したものの有名私大に合格した長男を浪人させ、以前の上司の息子と付き合っているらしい長女には、彼との結婚は自分の出世には有利だと告げ、家庭の事は全て妻に任せて、自分はキャリア官僚の出世競争に奮闘する。

ここまで来るとあまりに通俗的な人物で、よくある警察小説の敵役のお偉いさんにピッタリする人物像ですから、彼がこの作品の主人公だとは思いもしませんでした。

自分のことしか考えていない嫌われ者のように登場したこのキャリア。

実は出世を願うのは、偉くなればそれだけ行使できる権限が増えるという理由からで、国家公務員たるものは、私生活よりも国のために働くことが当然だと考えている。

他人に厳しいが自分にはもっと厳しく、不正を許さず原則を曲げない。

読み進むうちに感情移入せざるを得ない一本筋の通った立派な人物だということが、徐々に明らかになっていきます。

そうした中で、世間を騒がす陰惨な大事件を起こしながらも、犯行当時は未成年だったため刑が軽かった暴力団員が殺害され、更に同じ事件の共犯者だった男が殺されるという連続殺人事件が発生する。

司法の代わりに刑を執行したような事件にマスコミは沸き立ち、情報を求めて竜崎もコメントを求められるが、竜崎自身は捜査に関係しているわけではない。

しかしその事件の犯人として現職警察官が浮かび上がってくると、警察上層部はその事実をもみ消そうと工作を始め、そんな事をしたら警察の信用は地に落ち大変な事態になると案じる竜崎と対立することになる。

果たして竜崎はこの事態をどう収めていくのか・・・。


管理人はこの作品のタイトルだけ見て、警察内部の不正を調べる隠密監査官が巨悪に立ち向かうといったようなミステリィかな?と漠然と思っていたのですが、全く違う物語でした。

警察を揺るがす大スキャンダルになりそうな殺人事件をめぐる警察官僚たちの駆け引きと、自分の家庭内で起こった事件に悩みながら真っ正直に立ち向かうキャリア官僚の物語で、読んでいてページをめくるのが止められない、今までにない実に面白い警察小説でした。

ともかく全体的に爽快な印象を受けるところも管理人は好きです。素晴らしい作品だと思います。

「隠蔽捜査」シリーズ。

  1. 「隠蔽捜査」(本書)
  2. 果断 - 隠蔽捜査2
  3. 「疑心 - 隠蔽捜査3」
  4. 「初陣 - 隠蔽捜査3.5」
  5. 「転迷 - 隠蔽捜査4」
  6. 「宰領 - 隠蔽捜査5」
  7. 「自覚 - 隠蔽捜査5.5」
  8. 「去就 - 隠蔽捜査6」
  9. 「棲月 - 隠蔽捜査7」
  10. 「清明 - 隠蔽捜査8」
  11. 「探花 - 隠蔽捜査9」
  12. 「審議官 - 隠蔽捜査9.5」
  13. 「一夜 - 隠蔽捜査10」