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有川浩「クジラの彼」の感想です。

有川浩「クジラの彼」☆☆

クジラの彼

若い自衛官の恋愛を主題にした6編を収録した短篇集です。


「海の底」の主人公の一人の潜水艦乗務員と、彼と合コンで知り合った彼女との究極の遠距離恋愛を描いた表題作「クジラの彼」。
顔立ちも人当たりも良く、彼女への気の使い方も並大抵じゃない彼の最大の欠点は、ほとんど連絡がつかない潜水艦の乗組員だということです。我慢強い彼女でないと務まりませんね。

航空関連の重工企業に務める若い女性と航空自衛官の微妙な出会いを描いた「ロールアウト」も、無骨な航空自衛官の自然な優しさがいい感じ。

可愛い顔立ちの女性自衛官と、彼女に惚れたまま長い年月が過ぎてしまった同期の自衛官のホントの気持ちを描く「国防レンアイ」は、男の優しさというか惚れた弱みというか、そんな雰囲気が素敵です。

「海の底」のもう一人の主人公で、見るからに無骨な海上自衛官と、高校生の時に彼に恋して自衛隊に入隊したやり手女性技官の物語「有能な彼女」。
この作品は「海の底」を読んでからにした方が良いと思います。

恋愛感情がらみで営舎から脱走する若き自衛官を諭す上官の若いころを描いた「脱柵エレジー」は、何だか若い自衛隊員の生態が忍ばれて切ないような感じです。

「空の中」の登場人物の後日談「ファイターパイロットの君」も、主人公の女性戦闘機パイロットが変わり者で面白い作品です。


全体的に自衛官に対するリスペクトが感じられて、気持ちの良い短篇集です。

この短篇集だけを読んでも楽しめると思いますけど、自衛隊三部作を読んでからにした方がより一層楽しめると思います。