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有川浩「海の底」の感想です。

有川浩「海の底」☆☆☆

海の底

うららかな春のとある日に、横須賀の海底から巨大な甲殻類の生き物が多数現れ、陸地に上陸し人間を襲う。

信じられないような事態だが、この異常事態に向かったのは警察と機動隊だった。

治安維持を任務とする機動隊の想定している相手は人間で、怪物相手では如何ともしがたく、犠牲者がどんどん増えていくが、自衛隊出動による非難を恐れた政府は迅速な対応が出来ない。

一方で横須賀沖に停泊中の海上自衛隊潜水艦「きりしお」は、周囲を無数の甲殻類に取り囲まれ、艦内にはレクリエーションで近くに遊びに来ていた十数人の子どもたちと、まだ若い自衛隊士官2名が取り残されていた。


密閉された艦内で自衛官とともに過ごすようになるのは、我が儘いっぱいに育てられたリーダー格の少年とその取り巻きのグループに、引率者のような女子高校生とその弟で口がきけない少年、そして女子高生を慕うもののリーダー格の少年を恐れる子どもたちで、この子どもたちの人間関係が話を更に危険にしています。

そうした複雑な力関係や思惑を抱えた少年たちを統率する二人の若い自衛官がなかなか格好良いです。

メインは凶暴な巨大生物に囲まれ、潜水艦内という限られた空間内に閉じ込められながらも成長していく少年たちと二人の自衛官の物語ですが、一方で自己の危険を顧みず巨大生物に挑む警察官や自衛隊の活躍も感動的です。

そうした現場の人間をサポートするかと思いきや、足を引っ張るような行動をとるマスコミやTVリポーター、無責任な発言をする識者と呼ばれる人たち。これが妙にリアルに感じます。

逃げ腰の政府関係者というのも何だか説得力があるなぁ。

基本はパニック小説というか、異常な事態に立ち向かう人たちを描いたエンターティメントなのですが、勇気ある行動をとる現場の人間と、正義面して無責任な行動をとる人たちの対比がよく出来ていました。

しかし状況が極めて不穏な割には、どこか全体的に明るい感じで読みやすい作品です。面白かった。