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帚木蓬生「閉鎖病棟」の感想です。

帚木蓬生「閉鎖病棟」☆☆☆

閉鎖病棟

ある精神科病院の閉鎖病棟を主な舞台にして展開される、第8回(1995年)山本周五郎賞受賞の感動作です。

障害者を含めて人間を優しい視点で描いています。

なお閉鎖病棟というのは、法律に基づいて患者が強制的に入院させられる病棟を言うらしい。

こう聞くと刑事罰を受けるような犯罪を犯した(もしくは犯しそうな)重度の精神病患者が入る病院という印象を受けがちですけど、この作品を読むと印象が随分と変わります。

作品は閉鎖病棟で暮らす患者さんたちの日常、そしてこの病院に入院するようになったキッカケなどを描いています。

事情は一人一人違うけれども、家族と隔離されて帰る場所がなくなった患者さんたちがそこにいます。

確かに普通の人とは違うし、患者さん自身が外の社会で暮らすことにプレッシャーを感じていて、病棟の中で独特の社会を築いて、それなりに調和して暮らしている。

そんな病棟に凶悪犯が入院してきたことから患者たちの状況に変化が生まれ、そして発生する殺人事件。

テーマは重いけど、作者が人間を見る目が暖かいためか、全体的に薄暗い印象は受けません。

精神病患者と殺人事件が描かれても、サイコサスペンスとは正反対の真っ当な作品です。

しかしこういう精神病患者を社会から隔離することが必要なのかどうか、正直言って管理人には良く分からない。

小説を読めば感動するし、患者一人一人の人生に思いが及び涙が溢れたりもしますけど、でも例えば電車に乗った時に車内を奇声を発しながら走り回る大男と出会うと、平静な気持ちではいられません。

隣にブツブツ訳の分からない独り言を言い続ける人がいるだけで不安を感じます。

ヒューマニズムは大切だけど、自分に直接関係した場合には違う感覚を抱いてしまいます。

そういう違和感とどういう風に折り合いが付けられるかといえば、患者さんの事を知ることから始まるような気がしますが、実際には難しい事ですね。

そんな事も含めて色々と考えさせてくれる作品でした。

この作品は是非一度読むことをお勧めします。