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荻原浩「幸せになる百通りの方法」の感想です。

荻原浩「幸せになる百通りの方法」☆☆

幸せになる百通りの方法

7編のヒューマン・ドラマが収録された短編集で、全体的にユーモラスで後味が良い作品が揃っています。

「原発がともす灯の下で」は、息子の家に同居した老女のひとり語りがおかしい作品。そんな風には感じさせないけど、少しボケているらしい女性と、今風の若い孫娘のやり取りが、物語の終わりになると味わいが出てきます。

「俺だよ、俺。」は、タイトルから想像出来るように振込み詐欺に加担する青年の物語です。大阪出身の役者志望の青年が、先輩の役者とともに振込み詐欺にとりかかるけど、どうもうまくいかない。初めは単純な詐欺グループかと思いきや、仲間の皆さんもそれぞれの事情があるようで、読み進むうちに印象が変わっていきます。大阪では振込詐欺が殆ど成立しないと言うけど、実際のところはどうなんでしょう。

「今日もみんなつながっている。」の現代の世相を皮肉った語り口はお見事で、「後期高齢なう」には笑ってしまいました。ブログに書く題材を探して街をブラブラするニートの青年、自称作家だというおかしな老人、ネットゲームにはまる女子高生、見た目と味が全く異なる料理ブログがネットで人気を集めている主婦など、それぞれの登場人物を上手に繋がらせていく物語は見事です。

「出逢いのジャングル」は集団見合いに参加した女性の独り言が笑える小品。今は結婚するのも大変な時代ですね。

「ベンチマン」は、リストラされた中年サラリーマンが、その事情を家族に打ち明けられずに公園で過ごす日々を描いた、少し身につまされる作品。他人事とは思えない現代社会を感じます。

「歴史がいっぱい」はいわゆる歴女と付き合っている青年の話。シンプルな話で管理人は好きです。

そして表題作の「幸せになる百通りの方法」は、ハウツー本を読みふけってポジティブに生きようと努力する青年が、ストリート・ミュージシャンの女性と出会って変わっていく物語です。

7篇のどの短編も現代の世相を描いて、20年くらいするとこんな事もあったねと感じるような作品だと思います。