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荻原浩「海の見える理髪店」の感想です。

荻原浩「海の見える理髪店」☆☆

海の見える理髪店

夫婦・親子・家族などを主題にした、荻原浩らしい情感を感じる短編6篇を収録した第155回直木賞受賞の短編集です。

荻原浩もめったにハズレがない作家だと思いますが、この短編集がベストの作品かと問われれば、どうなんでしょうね。

荻原浩の直木賞受賞には驚かないし、文学賞を受賞した作品がその作家のベストかと言えばそんな事もないんですけど、この短編集は今ひとつ薄い印象の作品が多かったように思います。


表題作「海の見える理髪店」は、地方の不便な場所にある理髪店を訪れた若い客と理髪店の店主との会話で明かされる店主の人生の物語。大物俳優や政財界の名士がその腕に惚れて通ったという伝説の床屋さんが語る自分史ですが、あまり劇的な感じはなくて、ラストも想像した通りでした。

「いつか来た道」は長い間疎遠だった画家の母に会いに来た、中年となった娘の話。認知症になった母と再会したことで溶けていくわだかまりが描かれています。

「遠くから来た手紙」は仕事で留守がちな夫に反発して、子連れで実家に帰った妻が、居場所を探る物語。彼女に届く不思議なメールは何?という謎解きのような部分もありますけど、あまり必要ではないような気もする。何となく明るい雰囲気が良いですね。

「空は今日もスカイ」は両親が離婚して母の実家に帰った小学生の少女が海を目指して歩く話ですが、少し切ない物語につながって行きます。

「時のない時計」は父の形見だと母に貰った機械式腕時計を修理に出した定年間際の男性の話。時計屋で語られる物語に、忘れていた父との思い出が蘇ります。ラストシーンが良いですね。

「成人式」は人の親になってから読むと身につまされる話で、この短編集の中で一番良かった。こういうきっかけから前向きに生きられるようになると良いですけどね。

何かが解決するとか、スッキリするとか言うことはないけど、どこか人を見る目に優しさが感じられて、どこかユーモラスな印象を受けるところが荻原浩の良いところで、この短編集にもそれは感じられました。