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荻原浩「金魚姫」の感想です。

荻原浩「金魚姫」☆☆

金魚姫

同棲していた恋人に去られた江沢潤はうつ病だった。

素直で大人しい性格の潤が勤めている仏壇仏具販売会社は、プライベートな時間などほとんどないブラック企業で、朝から晩まで上司のパワハラに耐えながら、良心を押し殺して口先三寸の営業に追われる日々。

そんな企業に勤めたきっかけは、少し見栄っ張りで贅沢好きな恋人のため、給料の良い会社に移ろうと思った事だったけど、ストレスからうつ病になった潤に嫌気が差したか、恋人は出ていってしまった。

自殺も考えたけど、いざ死のうとしても、そんな勇気はない。

明日からまた会社かと憂鬱な気分でいた時にぶらっと寄った近所の夏祭りで、懐かしい金魚すくいをした潤は、なかなか立派な琉金をすくって家に持ち帰り飼うことにする。

そんなある夜、潤の前に赤い中国服を着た黒髪の美しい娘が、体を濡らして現れる。

自分が誰だか思い出せないという不思議な娘は、ひょっとして金魚の化身?気味悪く思いながらも、娘をリュウと名付けた潤が彼女と暮らすうちに、何故か潤には死んだ人間の姿が見えるようになってしまい・・・。


どこかとぼけた大人のラブコメ・ファンタジィかな、と思って読みましたが、もう少し奥行きのようなものを感じる物語でした。

ブラック企業でフラフラになっていた潤が、死んだ人間が見えるようになったことから営業成績がアップしていく(何しろ仏具屋ですから)様子は面白みがあって、こういう物語の醍醐味のような感じがありますが、そうして死者との対話をしているうちに、心を病んでまでする仕事なんてないという事に気がつく辺りは良いですね。

物語は潤とリュウがリュウの過去を調べようと奮闘する話がメインですが、リュウの過去の物語がところどころに挟まれた構成になっているので、読者はリュウの正体が大体わかっています。

そうした中で、終盤の決着の付け方には味がありました。面白かったです。