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呉勝浩「爆弾」の感想です。

呉勝浩「爆弾」☆☆☆

爆弾

東京・中野の酒屋で店員を殴ったスズキ・タゴサクと名乗る中年の男が逮捕され、警察署に連行されて傷害容疑で取り調べを受ける。

慇懃無礼で、のらりくらりとして、人を喰った態度のスズキは、早いところ示談で話を纏めたいと考えている刑事・等々力に対して、自分には特殊な霊感があると突然語り始める。

霊感によれば今から5分後の10時に秋葉原の辺りで何かが起こるような気がするとスズキが言った直後、秋葉原の町外れのビルの3階で爆弾が炸裂し死傷者が出た。

あんたがやったのかと問い詰める等々力に対し、霊感が働いただけだと言うスズキだが、しかし彼は更にこれから3回どこかで同じような事が起こると話し、次は一時間後だと言う。

次々と発生する連続爆発事件、自分は霊感が働いているだけだと言い募るスズキ、本庁から派遣されてくる尋問の専門家、スズキに翻弄される警察。果たしてスズキの目的は何か?事件の真相は?スズキの正体は?


よくもまぁ、こんな事が思いつくもんだと思いながら読みました。少し不気味で怖い、人間性を洞察するミステリィです。

若いうちから社会からはみ出して人生を諦めていたようなスズキの生き方、しかしながら他人を巧みに誘導していく話術は普通ではなく、それを活かして詐欺師にでもなりそうな人物でありながら、社会の底辺で目立たずに暮らしてきた男が、突然吹っ切れたように起こす事件。

優秀な警察官でありながら不用意な発言で左遷され、周囲の冷たい視線にさらされて、投げやりな態度で過ごす男。

様々な人生模様が描かれ、そして事件の真相に迫っていく。

よく出来たエンターティメントですが、本質は社会派ミステリィという感じで、生真面目な人間は生きづらい社会になったもんだなと思いながら読みました。