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森薫「乙嫁語り」の感想です。

森薫「乙嫁語り」☆☆☆

乙嫁語り

19世紀後半の中央アジア、定住化した遊牧民の一家エイホン家の跡継ぎカルルクの元に、家畜と共に移動しながら暮らす遊牧民の家から嫁いできた娘アミル。

この二人を主な主人公にして、伝統を守りながらシルクロードに生きる人々の生活を描いた2014年のマンガ大賞を受賞した作品です。


嫁に来たアミルは20歳の娘、その夫カルルクは12歳の少年で、どうやら何らかの手違いで二人の婚礼が決まったみたいですが作品中には特にその辺りの説明はありません。

初対面の結婚相手の年齢に最初はお互い驚きながらも、婚礼は無事に終わり夫婦となった二人。

この土地この時代では、20歳のアミルはやや遅い輿入れのようですが、歳が若くてもしっかり者のカルルクは、僕は気にしないよとアミルに語る優しい少年です。

同じ民族とは言っても、定住化したエイホン家と遊牧民として生きて来たアミルとでは習慣が異なります。

しかし何でも器用にこなす能力と天真爛漫で明るい性格からアミルは嫁ぎ先の中に溶け込み、初めは弟を見るような目で見ていたカルルクに対して、いつしか恋心を抱くようになります。

日本人には馴染みのない異文化の人々の日常生活を描いている作品ですが、部族間の考え方の行き違いやアミルの実家の横暴などが引き金となった大騒動が起きたりして、ワクワク感もある作品です。

3巻と4巻では、カルルクとアミルの物語から、エイホン家に滞在しながらこの地方の習俗などを研究していた英国人スミス氏の旅先での物語となります。

またそれ以降の巻でも、アミルと同じようにこの地で暮らす様々な女性たちの姿を、時にはユーモアを交えながら見事に描いています。

精密画のような絵で異国情緒溢れる情景をうまく表現しながら、厳しい環境の中で逞しく生きている人々の姿を巧みに描いていて、何度も何度も読み返したくなる作品です。