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砂原浩太朗「黛家の兄弟」の感想です。

砂原浩太朗「黛家の兄弟」☆☆☆

10万石の神山藩で代々筆頭家老を務める黛家には3人の息子がいた。

長兄の栄之丞は端正で怜悧で落ち着きがあり、次兄の壮十郎は豪放な性格の剣客でありながら無頼を気取り、兄たちとは少し年の離れた三男・新三郎は、同じ道場に通う軽輩者の親友・由利圭蔵と青春の日々を過ごしている。

藩内では娘おりうを藩主・山城守の側室とした次席家老の漆原内記が、自分の孫にあたる庶子・又次郎を正室の子の右京正就に変えて世継ぎにしようと画策していて、お家騒動の気配があるのだが、まだ若い新三郎には遠い世界の話であった。

そんなある日、父・清左衛門に呼ばれた新三郎は、清左衛門の盟友で大目付の黒沢織部正の家に婿養子に入るよう命じられる。

織部正の娘・りくは藩内でも評判の美人で新三郎の幼馴染でもあるが、新三郎は2歳年上のりくを少し苦手にしている上、りくが長兄・栄之丞に想いを寄せていることに気がついている。先日も栄之丞に頼まれて文をりくの女中に手渡したばかりであった。

しかし武家の縁談にそういう事情が通じるはずもなく、新三郎は大沢家に婿入し、目付けの見習いを始めるが、妻となったりくは心も体も新三郎に許さない。

そうした中で、遊興街で無体を働く若い武士たちの取り締まりに目付けとして出向いた新三郎は、不良武士の頭目である漆原内記の嫡男と争いになり、そこに居合わせた次兄・壮十郎が嫡男を斬殺したことから黛家と漆原家、及び藩内の確執に入り込んで行く。


砂原浩太朗の作品を読むのは高瀬庄左衛門御留書に続いて2作目ですけど、いやぁ良いですね。藤沢周平以来の情感あふれる時代小説を読んでいる気分です。

若き新三郎にとっては少し距離感のあった兄たち、しかし少しずつ成長していくにつれ、兄弟の絆を強く感じていくようになり、その絆はこの物語の大きな柱になっています。

そして新三郎の婿入りの話が出た時に新三郎と肌を合わせた女中・みやとの物語は、青春の甘酸っぱさと、みやの境遇の悲しさと、身分の違いの寂しさとが絡み合って、切ない気持ちにさせられます。

この作品は新三郎の成長を描いた作品でもありますが、人の心の弱さや醜さ、またそれを乗り越えて行こうとする強い気持ちを描いた作品でもあります。

物語の展開に疑問を抱いた部分もありますけど、とても面白い時代小説でした。