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山手樹一郎「夢介千両みやげ」の感想です。

山手樹一郎「夢介千両みやげ」☆☆☆

夢介千両みやげ

小田原の大百姓の息子・夢介は一見するとお地蔵さんのようなぼんやりとした風貌だが、誰にも負けない力持ちで、人間修行も出来ている好人物。そんな夢助が江戸に道楽修行に出る事になった。

江戸への道中で知り合ったのは、チョット類を見ない美人で垢抜けた女スリのお銀。

うまいこと言って夢助と旅の道連れになり、同じ宿に泊まり、夢助のいびきを聞きながら枕探しをして50両は入っていそうな胴巻きを盗み出し、翌朝夢助が起きる前に早立して、ヌケ作から金を盗んだと悦に入るお銀の前に現れたのは、武者修行で諸国を廻っていた江戸の剣術家だった。

お江戸の言葉はやっぱり違うなんて調子の良いことを言いながら、品川の宿で剣術家と一休みしているお銀の所に、剣術家の弟子に連れられておっとりとやって来たのは間抜けだと思いこんでいた夢助。

剣術家はお銀の正体をそれとなくバラすが、夢助は姉さんには面白い芝居を見せてもらったと笑っている。

夢助は親父さんから千両の小遣いを貰って江戸に道楽修行に出かけるところなのだとか・・・。

上手いこと騙した積りが、実はお銀の正体に気がつきながら騙されたフリをしていたなんて・・・。

こんな野暮天の田舎者なんかにバカにされてなるものかと思いながら、いつの間にか夢助に惚れて押しかけ女房のように世話を焼くお銀と夢助のお江戸でのおかしな生活が始まった。


とてもおおらかなユーモア時代小説の傑作です。

山手樹一郎の代表作の一つですけど、桃太郎侍ほどには知名度は高くないですね。

どこからどう見ても垢抜けない田舎者の夢助だが、深川芸者や女芸人などに惚れられて、それを小股の切れ上がったイイ女のお銀が尋常ならぬヤキモチを焼いて、夢助がなだめるという構図が妙に可笑しい時代小説です。

こういう平和な時代小説はゆったりとした気持ちになれて本当に良いですねぇ。

大好きな作品です。