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一色まこと「ピアノの森」の感想です。

一色まこと「ピアノの森」☆☆☆

ピアノの森

中部地方のとある町、「森の端」という町外れの歓楽街で街娼の子として生まれた少年・一ノ瀬海(カイ)は、母親の実家のある小学校に転校してきた日本有数のピアニストの息子・雨宮修平と親しくなった。

「森の端」のおばけの森に捨てられていたピアノに触れながら育ったカイは、誰にも弾けない壊れたピアノだと言うこのピアノを弾きこなす。

修平はクラスのいじめっ子からおばけの森のピアノに触ってこいと言われ、カイと二人でおばけの森に行くが、自分では音も出せない森のピアノを格好良く弾きこなすカイに驚き、親に言われるがままに弾いてきた自分のピアノに対する姿勢に変化が起る。

二人が通う小学校の音楽教師・阿字野壮介は、修平からカイが森のピアノを弾きこなす事を聞かされ、疑いながら出かけた森の中でピアノを演奏するカイの姿を見て驚愕する。

実は森のピアノは、かつて天才ピアニストと謳われながらも、交通事故に会った事でピアニストとしての道を閉ざされた阿字野壮介専用のピアノであり、阿字野はカイに若き日の自分の姿を重ねてしまい、その場でカイにピアノの指導を申し入れるが、カイはそんな事には興味がないと拒絶した。

カイは一度曲を聴いただけで、その曲を森のピアノを弾ける天才少年だった。

しかし後日、阿字野が学校で弾いてみせたショパンの子犬のワルツがどうしても弾けず、阿字野に子犬のワルツが弾けるように指導して欲しいと頼む。

阿字野がカイにピアノを教える代わりに条件としたのは、雨宮修平も出場する全日本ピアノコンクールの予選会にカイが参加することだった。


厳しい環境で育つ少年・一ノ瀬海が、すべてを失い小学校の音楽教師としてくすぶっていた天才ピアニスト阿字野壮介の指導を受け、ピアニストとしての才能を開花させていく物語です。

笑いがあり涙があり感動があって、ドラマチックに展開していくストーリーが素晴らしくて、コミックを何度読み返したか分からないほどです。

物語は主人公カイの成長を主に描かれていますが、カイに対する友情とともに嫉妬心を抱いて自分ではどうすることも出来ない雨宮修平のライバル心や、かつて同じ気持ちを阿字野壮介に抱いていた修平の父で日本有数のピアニスト雨宮洋一郎、交通事故で婚約者を亡くし自身も大怪我を負ってピアニストとしての道が絶たれた阿字野壮介、阿字野と親しい世界的ピアニストのジャン・ジャック・セロー、カイを深く愛するが「森の端」から離れることが出来ないカイの若き・母親一ノ瀬怜子、カイと知り合う事によって自己を表現するピアニストとして踏み出した少女・丸山誉子など、登場人物にも奥行きがあって、それぞれの人間ドラマも興味深いです。

コミックで全26巻が2015年末に完結しましたが、後半はショパン・コンクールを舞台にして、成長したカイが演奏するショパンの名曲と、それを聴いて深く感動する聴衆たち、ライバルとなる演奏家たちの姿が素晴らしく、特にカイの神がかった演奏場面は何度読んでも爽快な気分になります。

更に全巻通して読み直すと、また一段とこの作品の素晴らしさを感じて、こういう作品に出会えた幸運をしみじみと感じます。

ユーモアと暖かさと芸術の素晴らしさを感じさせてくれる、管理人のお気に入りの作品のひとつです。

音楽をテーマにしたマンガは沢山あるし、「四月は君の嘘」など面白い作品も多いのですけど、ここまで管理人の心をとらえたマンガは少ない。

すごい傑作だと思います。