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小池真理子「恋」の感想です。

小池真理子「恋」☆☆☆

恋

浅間山荘事件の陰で話題にならなかったが、同じ頃に同じ軽井沢で女子大生が男性を射殺し、別の男性に怪我を負わせるという事件が起きていた。

ノンフィクション・ライターの鳥飼三津彦は、たまたま当時の新聞記事から事件のことを知り、既に出所していた犯人の矢野布美子にインタビューを申し込むが、布美子は事件について語ることを拒み彼の前から姿を消す。

月日が流れたある日、布美子から癌に冒されて入院したとの手紙が届いた事から、鳥飼は布美子の入院先を訪れ、今まで語られることのなかった事件の真相を知るのだった。


素晴らしい作品でした。

管理人はミステリィだろうとSF・ファンタジィだろうと、又はそれ以外の小説であろうと、どちらかと言えばお気楽な「軽い話」の方が好きです。

ところがこの作品は決してお気楽なんかじゃありません。全然違う。いたって真剣な話。

でもとても面白かった。余韻が残ります。

まずひとつの結末が描かれ、そこから回想するように物語が展開していく構成の作品です。

このパターンはよくありますけど、この作品ほどそれが成功した小説は珍しい様に思います。

読んでいて「この作者は上手だなあ」と感心します。

主人公の矢野布美子の葬儀の場面から物語が始まり、彼女が殺人を犯し、服役する事を書いた上で、彼女の回想が延々と続きます。

全体的に彼女の青春時代の一時期を切り取った青春小説という風に感じました。

管理人は何かに燃えて一身に打ち込むような青春を過ごしていませんけど、後から思い返せば何故あれほど夢中になっていたのか、という事はよく有る話です。

布美子と片瀬夫妻との熱気に満ちた生活というのは、まさしくそういう瞬間だったんじゃないかと思います。

祭りの最中のような熱気と、それが醒めた時の虚しさみたいなもの。

もしかしたら、そうした時間が「恋」だったのではないでしょうか。