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佐藤雅美「物書同心居眠り紋蔵」の感想です。

佐藤雅美「物書同心居眠り紋蔵」シリーズ ☆☆☆

物書同心居眠り紋蔵

本来は優秀な人材なのに、居眠り病(ナルコレプシー)のおかげで実入りの良い外回りの同心になれず、例繰方という昔の判例や定めを調べる内勤勤めになった江戸南町奉行所の同心藤木紋蔵が主人公の連作時代小説です。


佐藤雅美の時代小説を読むと独特の時代考証で江戸時代が身近に感じられます。

理路整然と説明される江戸幕府の仕組みが、不合理な点も含めて読むうちにナルホド!と腑に落ちてきます。

この作品の主人公は町奉行所の例繰方で働いている好奇心旺盛な中年の同心藤木紋蔵。

江戸時代の司法制度は前例に則る場合が多く、そのため昔の判例に詳しい人物が必要になりますが、例繰方で勤務30年の超ベテランともなると重宝にされてしまいます。

しかし町奉行所の花形は外回りの同心で、いくら法律知識に詳しくとも収入は低く暮らし向きは厳しい。

外回りであれば、町の裕福な大店などからナニクレと付け届けがあり、また事件にからんでの副収入などもバカにならず生活は楽ですが、例繰方ではそんなものはなくキツイ。紋蔵も例に漏れず苦しい家計を助けるために副業に励んでいます。

紋蔵の父親は南町奉行所の優秀な同心でしたが、とある事件で殉職している上、複雑な事情から事件は迷宮入りしています。

その事に引け目を感じた町奉行所のお偉方の手配で、一時は紋蔵も臨時廻りになったことがありますが、紋蔵が外回りの同心になって過去の判例に詳しい例繰方の人材が不足した事で、結局紋蔵は不本意ながら例繰方に戻されてしまう。

この辺りは現代のサラリーマンに通じるような悲哀があります。

このシリーズ作品は、好奇心旺盛で頭も人間も良く出来た紋蔵が、事件に巻き込まれたり関わったりする姿を描きながら、江戸時代という今から思えば風変わりな世界を時にはユーモラスに、時には悲哀を込めて描いています。

シリーズの初めは案外とスッキリと事件が解決しない、その反面人生なんて実際にはこんなものというリアリティがある作品が多い印象ですけど、後半になるともっと大衆的な終わり方が増えてきたりして、なじみやすくなるような気がします。

居眠り病に罹っているという設定だけに、どこかゆったりとした雰囲気があって、管理人は佐藤雅美作品の中でも特に好きなシリーズです。