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リチャード・アダムス「ウォーターシップ・ダウンのうさぎたち」の感想です。

リチャード・アダムス「ウォーターシップ・ダウンのうさぎたち」☆☆☆

ウォーターシップ・ダウンのうさぎたち

ある平和なうさぎ達の村で、賢いうさぎファイバーはこの村が滅ぶ予兆を見た。

しかし村の長老うさぎ達はファイバーの予言を信じない。

ファイバーの兄ヘイズルは、ファイバーの予言を信じる仲間たちを連れて、新天地を求めて旅立つ。


若いうさぎ達がリーダーを信じて、幾多の困難を乗り越えて新しい村を築くまでを描いたファンタジィです。

ウサギが主人公?なにそれ、なんて感じを受けるかもしれませんが、うさぎを変に擬人化していないし、それでいて話の中にすんなりと引っ張り込まれてしまうとても面白い作品です。

うさぎ達の社会を通して人間社会を風刺した作品かというと、それも少し違うような感じの作品だと思います。

そういう枠組みにとらわれない自由な発想があって、命がけの冒険とワクワク感があって、そして理想的な新天地を見つけた時に出会う強大なうさぎの群れとの対決がクライマックスになります。ここだけは風刺的ですね。

新天地を求めるヘイズルたちのグループが、彼を中心にしてそれぞれの個体の自主性を重んじる群れなのに対して、彼らが出会う強大なうさぎの群れエスラファは、指導者のウーンドウォート将軍の力による統治を受けています。

将軍うさぎの元で階級化され、統制された生活を余儀なくされているうさぎ達は、外敵から護られ安全ですが自由のない生活をおくっています。

ウーンドウォート将軍は力と恐怖で群れを従えさせていますが、絶対的な悪というわけではなく、彼は彼なりのポリシーを持ってうさぎ達の為に尽くしていて、うさぎを襲う犬や猫などの敵に対しても、自らが先頭になって果敢に挑むような強いうさぎです。

だからこそ、自分たちのやり方が正しく、他のうさぎ達もエスラファに従うべきだと考えています。

しかし自由と安全を求めて新天地に来たヘイズルたちは統制されることを嫌い、ウーンドウォート将軍とエスラファのうさぎ達が自分たちの巣穴に侵略してきた時には果敢に立ち向かいます。

管理人は最強のうさぎウーンドウォート将軍に対抗して、ヘイルズの仲間のピグウィグが細い道を護るために一歩も引かずに挑む場面が好きです。

ウーンドウォート将軍が「外からの通路があいたぞ。もうこの壁を四ヶ所からぶちぬくだけのうさぎがはいってこられるんだ。なぜ、きみは出て来ない?」と降伏を呼びかけたのに対して、ピグウィグは「おれの長うさぎが、この通路を守れと、おれに命令した。長うさぎが命令を取消すまでは、がんばるのさ。」と答えます。

これを聞いたエスラファのうさぎ達は、この世で最も強く恐ろしいウーンドウォート将軍と互角に戦えるピグウィグこそがこの群れの長うさぎだと思い込んでいたので、ピグウィグよりも更に強いうさぎが居ると思い込んで戦意が急速に失われていきます。

無敵のウーンドウォート将軍が全ての権力を握り、全てを決定するエスラファに対して、群れのリーダー・ヘイズルは、力ではピグウィグ、知恵ではブラックベリ、物語の巧みさではダンディライアン、カリスマ性では弟のファイバーに劣っていますが、リーダーシップを発揮して戦いを勝利に導いていきます。

仲間を信じる心と助け合う気持ちと困難に立ち向かう勇気、そんな事をテーマにした大人も十分に楽しめる動物ファンタジィの傑作です。