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ロバート・シェクリィ「人間の手がまだ触れない」の感想です。

ロバート・シェクリィ「人間の手がまだ触れない」☆☆☆

人間の手がまだ触れない

「怪物」「幸福の代償」「祭壇」「体形」「時間に挟まれた男」「人間の手がまだ触れない」「王様のご用命」「あたたかい」「悪魔たち」「専門家」「七番目の犠牲」「儀式」「静かなる水のほとり」の13編のSF・ファンタジィを収録したシェクリィの処女短編集です。

管理人は中学生の時にペーパーバック版のハヤカワSFシリーズで読みました。

あの頃は海外SFの翻訳はそれ程出ていない時代でしたが、シェクリィは当時の人気SF作家で、一般受けする作風とは少し違うような気もしますが、比較的多く翻訳されていたように思います。

シェクリィのSFは斬新なアイディアと社会風刺に満ちた作品とよく言われていましたが、当時の管理人はあまりピンと来なかったように思います。

でも何度も読み返してみると、斬新なアイディアというのは確かに感じますね。

ユーモア・ファンタジィの風味にあふれた「王様のご用命」と「悪魔たち」は、突然訪れた理不尽な窮地を何とかしようと奮闘する人間のおかしさと、いかにもアメリカのSFらしいユーモラスな楽しさがあって、後味が良い作品です。

でも管理人は、この短編集の中では「専門家」と「体形」の2作が好きです。 

「専門家」はそれぞれ違う種族の宇宙人が協力して航行する宇宙船が舞台。ある意味とても観念的な情景ですが、それぞれが持つ特技というか種族の特徴を生かして宇宙船を運行させていたところに突然のアクシデントが起こり、宇宙船を推進する役目の種族が死んでしまう。

このままでは故郷に帰れないとなった時に、推進する能力を持つ種族が住む惑星(実は地球)が見つかり、その住人一人を仲間にしようとするが、宇宙船に連れて来られた人間は奇怪な化け物に攫われたとパニックを起こしてしまう。

実に寓意に富む作品です。

そして「体形」。

どんな姿にも変身できる能力を持つ宇宙人が、地球侵略を企んでいる。

しかし何度か地球にエージェントを送り込んだのにも係わらず、誰一人として帰還してこない。

そこに新たに送り込まれた青年。

地球は科学が発達しているわけでもなく、そこの生物たちは彼らと違って姿が不自由に固定されている。

しかし何という多様性に富んだ世界か・・・。数十種類程度の形態の生物しか住まない故郷と違って、地球には無数の形態の生物がいる。

やがて青年は何故仲間たちが帰って来なかったか、その理由を知ることになる。

この作品、何というか奔放な想像力と開放感にあふれて、他に類を見ないような素敵なSFです。

シェクリィ、やっぱり本当にスゴイなと思いますね。