藤沢周平「よろずや平四郎活人剣」☆☆☆

よろずや平四郎活人剣

千石取りの旗本・神名家の四男坊の神名平四郎は、今は亡き父が台所働きの下婢に手を付けて生まれた冷や飯食いで神名家の厄介者。

剣術の腕前こそ雲弘流・矢部道場の高弟で大したものだが、家人からは冷たくあしらわれ、六年前に三百石の旗本・塚原家の婿養子の話が流れてからはそうした話もなく、鬱屈した日々をおくっていた。

だからこそ、矢部道場の仲間の明石半太夫、北見十蔵と三人で剣術道場を開くという話に乗り、長兄からまとまった金を貰って家を出て長屋ぐらしを始めたのだが、信頼していた明石が金を持ち逃げした。

今更実家に戻る訳にも行かない平四郎が、生計の道として思いついたのがよろずもめごと仲裁業。人を口先で丸め込むことと剣の腕には自信があるはずだったが、さて・・・?


用心棒日月抄」と少し似た感じの、どこかユーモラスな雰囲気を感じさせる連続時代小説です。

主人公は知行千石の旗本家の妾腹の四男で、実母の身分が卑しいとして周囲から冷遇されてきた青年武士。

思い切って家を出ての浪人ぐらしは気楽だけど、自分で食べていかなくてはならない。よろず仲裁と言っても、そんなに仕事がある訳でもなく、家の中の揉め事を解決して欲しいという程度であれば良いけど、中には物騒な依頼もあります。

その上、謹厳実直な長兄は幕府の目付役で、水野忠邦の改革から始まった幕府内の確執に、平四郎の剣の腕を利用しようと用事を言いつけてくる。

敵役の鳥居耀蔵の配下の非情な剣術使いとの対決もあれば、人情噺やおかしな話もあり、平四郎が養子になれなかった塚原家の娘早苗との恋話もあって、楽しく読めるエンターティメントですが、巷の娯楽時代劇と違って藤沢周平らしい格調が感じられるのも良いです。

 

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