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武者小路実篤「友情」の感想です。

武者小路実篤「友情」☆☆☆

友情

脚本家の野島と新進作家の大宮は、お互いに尊敬し合い切磋琢磨するライバルであり親友だった。

今は大宮の方が世間から評価されているが、大宮はいずれは野島も世にでるはずだと励ましてくれる。

そんなある日、野島は友人・仲田の妹・杉子に恋をする。

苦しい恋心を大宮に打ち明けると、大宮は親身になってくれた。

しかし大宮は突然ヨーロッパへ旅立ち、野島が思い切って杉子に求愛すると、杉子は野島の愛を拒否して、かねてから思慕していた大宮の元に旅立っていく。


管理人は基本的に小説に娯楽を求めていますので、いわゆる’ブンガク’は好きじゃありません。

特に日本の文学は一部の作家の作品以外は面白いと思った記憶が殆どない。

それでも著名な作品は教養の一つとして出来るだけ読みたいと思った時期がありますけど、どうにも読んだという事実以外には何も残っていない事が多いような気がします。

この武者小路実篤の「友情」も、社会人になってから大して期待せずに読みました。

驚いたね。

もっと早く、中学・高校の頃に読むべき小説だったと思いました。

脚本家野島が、友人である作家大宮に抱く屈折した感情。大宮が褒められれば、アイツなら当然だと思うが、今の自分と比較して嫉妬心が起こるのを止められない。

そんな小さな自分が情けないが、自分が世間に認められないのは、世間に目が無いからだ、と思う。

友人の妹、杉子に対しても、俺の真価が分からぬ様な女は俺にふさわしくない、と思いつつも、なぜ俺の気持ちがわからないのか、と悲しく悔しい。

そんな自分の気持ちの全てを打ち明けていた親友大宮に、杉子が恋していたとは・・・。

飾らない平易な文章で、若者に特有の尊大な、しかも繊細な心情を書き連ねていて、まるで自分の事を書かれているかのように感じました。

ここまで感情移入した作品を管理人は知りません。

友情と恋。青春時代の最も大きな記念となる感情が、それが例え負の感情であっても自らの糧となっていく様が素晴らしく、読んでいて面白かったのと同時にとても感動した事を覚えています。

大正デモクラシーの白樺派の小説なんて読みたくないと思っている方は、是非読んでみて下さい。

とても短い作品ですけど古さを感じさせない見事な小説だと思います。