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佐藤正午「ビコーズ」の感想です。

佐藤正午「ビコーズ」☆☆

2作目が書けずにスランプに落ちている新人作家が、自分としては忘れていたい10年前の心中事件の顛末を見届けようと決意して故郷に帰り、そこで気づく様々な事実を描いた等身大の青春小説です。


主人公は昭和30年生まれの29歳という設定で管理人と同年齢、更に作者も管理人と同じ年齢で、何かそれだけで感情移入してしまいます。

更に本の奥付を見ると1988年が初版となっていましたから、この小説が書かれたのは1986年頃という事でしょう。おそらく作者自身のリアルタイムの年齢で書かれた作品なんでしょうね

読み始めはちょっとワルだった青年の回顧話を、凝った文章表現で書いた類型的なブンガク作品という印象を受けましたが、読み進むうちに主人公の等身大的な部分に何となく共感が生まれて、とんでもない奴だなと思ったりしながらも話に引きずり込まれて行きます。

登場人物が皆どこか暖かい部分が有って、特に物語で重要な位置を占める叔母さんの存在感が何とも言えず良い感じがします。

同じ年代で同じ時代を生きてきた人間として、作品中の登場人物たちはこの事件から30年以上が過ぎた今、どんな人生を歩んでいるのかな?なんて考えてしまいます。

そういう事を思わせる雰囲気がある小説で、大した事件が発生するわけでもないけど、どこか味わいがあって、読んでいて心地よい作品でした。