篠田節子「神鳥-イビス」☆☆☆

神鳥-イビス

日本画家の河野珠枝は、名画「朱鷺飛来図」を描きあげた直後に27歳の若さで謎の死を遂げた。

この幻想的な日本画には人を惹きつける妖しい魅力があるが、どこか恐怖を感じさせるところがあり、そしてこの絵に魅せられた人物は不幸な最期を遂げている。

イラストレーターの谷口葉子とバイオレンス作家の美鈴慶一郎は、この絵に隠された謎を探るため、珠枝の足跡を追って佐渡から奥多摩へ向かったが、そこで二人が出会ったものは・・・。


若くして夭折した明治時代の女流画家・河野珠枝の「朱鷺飛来図」を巡る謎を追いかけるうちに恐ろしい体験をすることになる女性イラストレーターとバイオレンス小説家を主人公にした、なかなか印象深いホラー小説です。

朱鷺が人を襲うという点が今ひとつピンと来ないし、一つの村を絶滅させるくらいすごくて、しかもそれが誰にも知られることがなかったというのは納得出来ませんが、この謎を追って二人が奥多摩で遭遇する悲惨な場面は相当怖いです。

上手に組み立てられた物語で、前向きで強気のイラストレーター谷口葉子と気弱で優しいバイオレンス作家美鈴慶一郎のコンビがうまくはまって、やや夫婦漫才風の可笑しみがあるのが面白い。

そんな愉快なコンビを主役にしながらも充分に怖い作品で、その按分がまた絶妙という感じがします。

谷口葉子が朱鷺に襲われる美鈴を助ける際に、こいつは自分の男だと思ってしゃかりきになる辺りが、何だか幻想的な恐怖と現実的な打算がうまく入り交じって独特の雰囲気になっています。

ただ怖いだけの小説なら大した事ないけど、最後まで尾を引く幻想的な怖さがあって、それが主人公の現実的な考え方と対比されていて、この作品はこの辺りの表現が本当に上手だと思います。

読んだあとに、いつまでもあとを引くファンタジィ・ホラーの傑作だと思います。


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