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佐藤多佳子「一瞬の風になれ」の感想です。

佐藤多佳子「一瞬の風になれ」☆☆☆

一瞬の風になれ

陸上短距離に打ち込む高校生たちを描いた青春小説で、第28回(2007年)吉川英治文学新人賞、第4回(2007年)本屋大賞の受賞作です。

中学の頃から注目され続けた気ままな天才ランナーの一ノ瀬連と、その親友で中学まではサッカー部に在籍していた生真面目な性格の神谷新二。

この二人が強豪とは言えない高校の陸上部に入り、周囲の応援もあって力をつけていく姿を中心にして描かれています。

自分では自分を凡人だと思っている新二には、身近な天才児が二人存在します。

一人はどうしても勝てないランナーの連、もう一人はJリーグのサテライト・チームに所属しているサッカー界期待の星の兄健一です。

新二は自分であまり意識していないようですが、微妙な劣等感と憧れを二人に抱いています。

家族みんながサッカー選手の兄を応援する環境下で、新二も兄に憧れてサッカーをしていたのですが、サッカーでは平凡なプレイヤーでした。

両親はそれでも高校でサッカーを続けるのではと思っていましたが、新二はサッカーに見切りをつけています。

一方で、中2で全国有数の中学短距離界の実力者だった連は、部活でのゴタゴタで陸上部を退部し、短距離走から距離を置いていました。

そうした中でごく普通の公立高校・春野台高校へ進学した新二は、ふとしたきっかけから連と一緒に陸上部に入部することになり、短距離の面白さに目覚め、才能を開花させていくようになります。

ひたむきにスポーツに打ち込む新二と仲間たち、強豪校のライバルたちの姿、成長していく若者、スポーツだけではない悩みなど、テーマも温かくて、400mリレーの描写などは圧巻の迫力で、実に印象的で面白い作品です。