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大今良時 「聲の形」の感想です。

大今良時「聲の形」☆☆☆

聲の形

友人がいない高校生・石田将也は、小学生の頃に転校してきた耳に障害がある少女・西宮硝子のいじめを率先した。

退屈が嫌いな腕白小僧だった将也には、耳が聴こえないという事がピンと来ない。

初めは前の席の硝子にちょっかいを出している程度だったが、聴覚障害者の硝子がクラスの中で浮き始めると将也のいじめはエスカレートしていき、硝子に反感を抱くクラスメート達の中心となって硝子をいじめ、担任教師を含めたクラス全体が漠然とそれを黙認するようになっていく。

しかし将也が幾度となく壊した硝子の補聴器の被害額が170万円以上にもなった事が大問題となり、いじめに無関心だった担任教師が将也を強く叱責した事をきっかけに、将也は罪を問われ、みんなでやった事だという発言から級友たちの反感を買い、今度は将也がいじめの対象になってしまう。

仲の良かった親友たちの裏切り、障害者をいじめて転校させた悪い奴との評判は中学生になってもつきまとい、社交的だった将也はいつしか人を信じず寄せ付けない孤独な少年に変わっていく。

他人と関わらずバイトで稼いだ170万円を、女手一つで将也とその姉を育ててきた理容師の母の元に置いて、自殺する積りの将也は硝子に謝罪しようと、硝子が通う手話サークルの会場へと向かった。


2015年の「このマンガがすごい!オトコ編」の1位になった名作コミックです。

いじめの問題と贖罪が主題のようになっていますが、実際にはもっと奥の深い作品で、いじめについても単純に加害者・被害者とだけ描かれているわけではなく、誰かが一方的に完全に悪いという風に描かれてはいないと感じました。もちろんいじめの問題を正面から取り上げていますが・・・。

障害を持つということ、人は他人とどう向き合って生きていくのか、人と人とが意志を通じ合わせる事の難しさ、人の支えとなって生きていくことの尊さ、人が成長していく姿について、友情や愛についてなどが、それぞれの立場やさまざまな状況で描かれています。

子供の頃からいじめられていた硝子が、突然目の前に現れたいじめっ子の将也を許し、心を開いていく様子は、確かにリアリティはないかもしれないけど、こういう展開になって貰わないと話が進まない。

自分がいじめられ傷ついたことから、人間不信になりながらも自分のやったことを悔い見つめ直す主人公・将也の成長には感銘を受けるし、高校生の将也が小学生の自分の行いを省みて、あの頃の自分を殺してしまいたいと思うところなど、妙に共感できました。

何だか全7巻を一気に読んでしまいましたね。

名作だと思います。将也と硝子には幸せになって欲しい・・・。