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ダン・シモンズ「ハイペリオン」の感想です。

ダン・シモンズ「ハイペリオン」☆☆☆

ハイペリオン

1990年のヒューゴー賞を受賞した気宇壮大なSF叙事詩の序章になります。

舞台となる世界は、宇宙に進出した人類連邦と、ハイパー空間を制御する知性化したコンピュータ群AIと、宇宙の過酷な環境化で人類が変異した新人類アウスターとが三つ巴となって覇を争う28世紀の未来社会です。

辺境の惑星ハイペリオンに存在する謎の遺跡「時間の墓標」は、この世界の不確定要素とされていたが、ついにこの「時間の墓標」が開きはじめたという。

全てを見通すAIも人類連邦やアウスターも、ハイペリオンを自らの支配下に置きたいと考えていたが、そうした情勢下で7人の人間が、「時間の墓標」に封印された神とも崇められる殺戮者シュライクの巡礼者として「時間の墓標」へと旅立つ。

こうしてハイペリオンに赴いた巡礼者たちから語られる6つの奇妙な物語が、連作短編のように構成されています。

聖十字架を巡る司祭の物語、苦痛の神シュライクと謎の美女を探す兵士の物語、昔ハイペリオンに築かれた「詩人の都」とシュライク召喚にまつわる詩人の物語、時間を逆行する娘と父親を語る学者の物語、AIに作られた詩人キーツの人格を持つサイブリッドの謎を調査する探偵の物語、そして人類連邦に抵抗しながらも飲み込まれて行く惑星の悲哀を恋人達の視点から描く領事の物語。

これらのそれぞれが独立した非常に印象深い話が展開されて、やがて一つの世界に収斂していく。

壮大でテクノロジーの行き着いたような遠い未来の話なのに、ここに語られる物語は何故か懐かしさを感じるような語り口で綴られていて素晴らしい。

更に「ハイペリオン」で語られた巡礼たちの個々の物語が、続編の「ハイペリオンの没落」に繋がっていき、始めに物語の中で提起された謎が複雑に絡み合って、パズルが合わさっていくように謎が解明していきます。

そうした物語の中で広げられる如何にも壮大なSF的ヴィジョンの数々。鮮やかな電脳空間テクノコア、惑星間を結びつける転位ゲート、転位ゲートを通して流れる巨大な河、惑星間を連なって存在するショッピング・アーケイド、そこで描かれる情景はまるで不思議絵のようで、観念的には理解できても現実の情景として思い浮かべるのは中々難しいですけど、そこに大いなるSFロマンを感じます。

「ハイペリオン」と「ハイペリオンの没落」を続けて読めば、間違いなくその続編に当たる「エンディミオン」と「エンディミオンの覚醒」まで読まずにいられなくなると思います。

「エンディミオンの覚醒」に至って、物語は完結しますしね。

誰かが20世紀SFの集大成のような作品だと言ってましたが、まさしくそういった感じのセンス・オブ・ワンダーにあふれた傑作SF小説です。