面白い本を探す

ケン・グリムウッド「リプレイ」の感想です。

ケン・グリムウッド「リプレイ」☆☆☆

リプレイ

ニューヨークの小さな地方ラジオ局に勤めるジェフは、いさかいの絶えない妻リンダと電話で会話中に突然心臓が止まり死亡した。まだ43歳の秋だった。

しかし死んだはずのジェフは、どこか見覚えのある場所で意識を取り戻す。

そこはかつて彼が暮らしていた大学の学生寮の部屋の中で、更にその部屋に現れた若者は、ずいぶんと昔に死んだはずの大学時代の親友だった。

ジェフは18歳の若者に戻っていた。

しかも43年間生きてきた記憶や知識は元のままで、時間だけが25年前に戻ってしまったらしい。

人生をもう一度やり直せる!

未来を知るジェフは、その知識を活かして賭けや投資などで成功し大金持ちになり、前の人生では持てなかった愛しい娘も出来た。

しかし新しい人生でも43歳の秋を迎えた時、前の人生と同じ日の同じ時間に同じ症状で死亡する。

そして再び目覚めたジェフは、今度は大学時代に付き合っていた彼女と車の中にいた。

また始まる新しい人生。以前の人生と同じ轍を踏まないように気をつけて幸せな日々を過ごすジェフだったが、43歳になると同じ結末を迎え、そしてまた過去に戻って新しい日々が始まる。

果たして彼の運命は・・・。


人生にやり直しがきくとしたら・・・という事は誰でも一度や二度は思ったことがあるはずですが、この物語の主人公はまさに何度も何度も人生を繰り返します。

但しやり直せる人生は徐々に短くなっていくのですが・・・。

自分で選んだ人生の結末を知っているが故に、次の人生ではその失敗を繰り返さないようにするけれども、営々と築き上げてきた新しい人生も43歳の秋を迎えると全てが水の泡と消える宿命。

始めのうちこそ大金持ちになったり享楽的な人生をおくったりしますが、どんな風に生きようとも43歳の秋に全ては無に帰し、出会った人たち、愛した人々、自分が生み出したもの全てが塵のように消え去る事に虚しさを感じるジェフ。

オリジナルの最初の人生では人生に疲れた普通の中年男だったジェフは、人生を繰り返すたびに人生の目的、人が生きているうちになすべき事を考え始めて、人間的に深みを増して行きます。

更には自分と同じように人生をリプレイする女性パメラと出会い愛し合う事で、二人はお互いに影響を受けながらより良い生き方を模索するようになります。

現実の人生においては、やり直しは効かない。

だからこそ今を大切にして有意義に過ごし、過去を振り返った時にベストを尽くしたと思えるような人生を生きるようにしないといけない。

エンターティメントなSF小説として、とても面白い作品ですけど、テーマの掘り下げ方が見事で、奥が深い作品だと思います。

1988年の世界幻想文学大賞の受賞作ですが、当然の作品ですね。