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宮部みゆき「誰か―Somebody」の感想です。

宮部みゆき「誰か―Somebody」☆☆

誰か―Somebody

自転車にひき逃げされて死んだ男性について調べるうちに意外な事実が判明していくという、日常の中に潜む謎を描くミステリィです。

探偵役の主人公は今多コンツェルンという大企業グループの広報室に勤務する編集員杉村三郎。映画館で知り合って付き合いを始めた温和な女性がたまたま財閥のお嬢様で、身体の弱い彼女と結婚したことを契機に義父の会社に勤めることになった人物です。

いわゆる逆玉ですけど、三郎には出世欲がなく、妻の実家に気後れを感じながらも、妻子のために義父の元で働いている好人物です。

こういう設定が何となく加納朋子や北村薫のミステリィに登場する探偵っぽいですけど、そういう平穏な日々をおくりたいと考えている人のよい男性を主人公にしながら、物語は人間の心の中にある闇のようなものを淡々と描いています。

劇的に展開するような話ではありませんが、心優しい探偵一家との対比で、日常に潜む悪意の存在が際立って感じるような、そういう構成のミステリィに仕上がっています。

こういう作品を書かせると、宮部みゆきは本当に上手ですね。