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宮部みゆき「桜ほうさら」の感想です。

宮部みゆき「桜ほうさら」☆☆

桜ほうさら

武道を奨励する小藩の御納戸役の次男坊・古橋笙之介は、剣術はまるでダメで、学問に打ち込む、気持ちが優しい若者。古橋家の跡継ぎである兄は剣術に秀でている強者で、剣の腕を活かして出世することを願っている。

身分の高い家から嫁いできた気が荒い母は兄を後押し、実直で優しい父は家族を見守っている。

そんな古橋家に波乱が起こり、父が城下の御用商人から賄賂を受け取っていたという疑惑が持ち上がった。

身に覚えがないという父だったが、本人も認めざるを得ない筆跡で書かれた証拠が出てきて父は自害し、古橋の家は断絶し、家族は母の実家の預かりとなる。

そうした中で、兄の仕官話が持ち上がり、その後押しをせよと母親に命じられた笙之介は、藩内に隠然たる勢力を持つ江戸留守居役に助力を乞うため江戸に向かった。


父親の冤罪事件、先の見えない家族の行く末などが背景にある割には、全体的にホンワカした雰囲気で物語が進みます。

世間知らずの笙之介が江戸で様々な人に出会い成長していく姿や、身体に不思議な痣がある商家の娘・和香との恋もあって楽しく読める作品です。

ただ全体的にはテーマがぼやけているような印象を受けました。

宮部みゆきの作品は基本的にハズレがないように思いますが、それでもどうしたって自分に合う作品と今ひとつピンと来ない作品があります。

この小説もそれなりに面白かったのですけれども、ムダに長いような気がするし、主人公の笙之介が巻き込まれた事件の全貌に真実味が感じられず、普通の人情時代小説としては悪い出来ではないと思いますが、宮部作品が持つ期待感には答えていないような気がします。

個人的にはちょっと惜しい感じでした。