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宮部みゆき「ばんば憑き」の感想です。

宮部みゆき「ばんば憑き」☆☆☆

ばんば憑き

「坊主の壺」「お文の影」「博打眼」「討債鬼」「ばんば憑き」「野槌の墓」の6編の怪談話を収録した、宮部みゆきらしい雰囲気を感じる時代短編集です。


「坊主の壺」はコレラが猛威を振るう江戸・深川の町で、人助けをする材木問屋の主人の隠された秘密と、その店の奉公人となる気が利く娘の人情話で読みやすい作品。

「お文の影」は影踏みで遊ぶ子どもたちの影の数が、子どもたちの数と合わない事に気づいた老人が、馴染みの岡っ引きとその訳を調べる話。哀しいけれども怖い物語にしないところがこの作者らしいと思います。

「博打眼」は先祖が妖怪と交わした約束が元で苦労を重ねる商家の一族が、その呪縛から逃れようとする話で、どこか剽軽なところもあって面白い作品です。

「討債鬼」は「三島屋変調百物語事続」のシリーズに登場する若い寺子屋の師匠・青野利一郎が、習い子の商家の跡継ぎ息子・信太郎を助けようと奔走する物語です。子供を殺そうとする物語なのに、悪人らしい悪人が登場しないところが良いですね。

表題作の「ばんば憑き」は何気に怖い物語です。本家筋の商家の婿養子になった若旦那の厳しい立場がキツイ。でもそこから逃れる術もない時代ですから、その閉塞感に気がつくとキツイでしょうね。この短編集では唯一という容赦ない物語です。

「野槌の墓」は化け猫に頼まれて妖怪退治に乗り出す浪人者の話で、その背景は哀しい物語ですけど、どこかユーモラスでほのぼのとした作品になっています。


やっぱり宮部みゆきは良いなぁ・・・。