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宮部みゆき「荒神」の感想です。

宮部みゆき「荒神」☆☆☆

荒神

徳川綱吉の治世となった江戸時代、東北の山間に隣接して2つの小藩があった。

永津野藩は農民たちから厳しく年貢を取り立てて軍事力を維持し、若き藩主・竜崎高持の側近で非情な専横者・曽谷弾正が牛頭馬頭と恐れられる軍団を指揮している。

永津野藩の支藩とされる香山藩では、山を開拓し香木や生薬の原料となる野草などを栽培して藩の収入源としている。

香山藩では家風がゆるく年貢の取り立ても厳しくないため、香山の農民たちは永津野が地獄、香山が天国と話しているが、永津野藩の過酷な扱いに逃散した領民たちが香山藩内に逃げ込むと、永津野藩はその領民を追ったついでに香山の農民を捕らえ、労働に使役するような事をしていた。

軍事力に勝り主藩でもある永津野藩は、支藩である香山藩に対して尊大な態度を取っていたが、曽谷弾正が浪人者から御側番方衆筆頭に取り立てられて以来、その専横がますますひどくなっていた。

そんな中で香山藩の領内の山村が一夜にして壊滅し、領民たちがあろうことか永津野に逃げたという報が香山城中に送られる。


いがみ合う2つの藩の境界の地に現れた呪われた怪物に対峙する人間の姿を描いた時代ファンタジィ・ホラーです。

香山藩の事情、永津野藩の事情、非情な権力者・曽谷弾正と心優しいその妹・朱音、壊滅した村の少年・蓑吉など、それぞれ入り混じって物語が進みます。

人間を襲い食らう巨大な怪物が登場しますが、パニック小説というわけではなく、曽谷兄妹や永津野・香山の昔からの確執の歴史などが語られて、宮部みゆきらしい人間ドラマが展開して行きます。

単純に善人・悪人と割り切れるような人物は登場せず、それぞれの立場や考えから行動する姿が潔い印象を受けます。

殆ど無敵の怪物に対峙する朱音の姿に、何となく風の谷のナウシカの巨神兵とナウシカを連想してしまいました。似ていないんですけどね。