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宮部みゆき「過ぎ去りし王国の城」の感想です。

宮部みゆき「過ぎ去りし王国の城」☆☆

過ぎ去りし王国の城

中学三年生の尾垣真は目立つことのないごく普通の少年。

夫婦でカレーショップを経営する両親と3人で平穏に暮らし、高校受験も早々と中程度の公立高校への推薦入学が決まっている。

そんな真が母親に頼まれて銀行に振込手続きに出かけ、ひょんな事から持ち帰った中世ヨーロッパの古城を描いた見事なデッサン画は、触れると絵の中の世界を覗いているような不思議な感覚があった。

色々と試しているうちに、絵の中に等身大の人物を描き込めば、その人物をアバターのようにして絵画の世界に入れることに気づく。

しかしそれには精密な絵を描く必要があり、絵心のない真は隣のクラスの嫌われ者の女子生徒で美術部員の城田珠美に協力を仰ぐことにする。

珠美が描いた小鳥をアバターにして絵の中に入った真は、古城の近くを飛ぶうちに、幼い少女が城の中に囚われているのを見かける。

真相を確かめようと、真と珠美は絵画の中に自分たちのアバターを描き込んで冒険に乗り出すのだが・・・。


絵画の中の別世界に入り込んだ少年少女が冒険をするジュブナイル・ファンタジィ・・・ではありません。何となくそんな印象を受けてしまう設定ですが、いじめの問題や家庭内の虐待の問題など、もっと社会性のある出来事を寓話的に展開していった物語という印象です。

宮部みゆきらしくドンドンと物語が展開していくので、ついつい読んでしまいますが、微妙な消化不良を感じる作品でした。

面白いことは面白いのですが、奔放に展開するファンタジィという訳ではなく、かと言って緻密に構成された作品という感じもしなくて、特に後半はやや投げやりで中途半端な感じを受けます。

描きたいことは何となく分かるし、宮部みゆきらしい毅然としたところや優しさも感じるのですけど、彼女ならもっともっと面白く仕上げられるだろうに、というのが正直な感想です。