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宮部みゆき「昨日がなければ明日もない」の感想です。

宮部みゆき「昨日がなければ明日もない」☆☆☆

昨日がなければ明日もない

杉村三郎シリーズの第5作目で3篇の作品を収録した連作短編集になります。


「絶対零度」は上品な50代の女性が自殺未遂をした自分の娘に会えないという事から、調査を始める杉村の姿を描いています。調査を進めるうちに徐々に明らかになっていく事実の描き方が上手ですねぇ。

「華燭」は、近所に住む裕福な家の女性に、姪の結婚式に出席する中学生の娘に付き添って披露宴に参列して欲しいと依頼された杉村たちが、会場のホテルで発生したトラブルに巻き込まれる話です。流石に設定に多少の無理を感じますが、構成はなかなかだと思います。

「昨日がなければ明日もない」は杉村の事務所の大家がらみで、エキセントリックで奔放な女性から調査依頼を受けた子供の交通事故に関する調査から始まる苦い物語。善良な人ほど余計な苦労を背負い込むという話が辛いですね。


杉村三郎シリーズは人間の悪意を描いた作品が多いと思いますけど、この5作目もそんな風な作品揃いです。

一見するとごく普通というか多少くせはあるけど自分の周りにもひょっとしたら居そうな感じの人が、実は人として大切な何かがどこか欠けていて、あるいは悪意をもち、あるいは悪意の自覚もなく引き起こす事件が、とても不気味に感じます。

しかし主人公の杉村三郎が無類のお人好し探偵で、彼の周りにいる人達も善意の人たちが多いので、どこまでも暗くなりそうな雰囲気は中和されて、作品には独特の雰囲気があります。

明るい気持ちにはならないけれども、面白かったです。