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ロバート・ゴダード「さよならは言わないで」の感想です。

ロバート・ゴダード「さよならは言わないで」☆☆☆

さよならは言わないで

第一次世界大戦後のイギリス。資産家ヴィクターの邸宅の設計を依頼された新進建築家ジェフリー・スタッドンは、夫ヴィクターと愛のない結婚生活をおくるブラジル出身の美しい人妻コンスエラと激しい恋に落ちる。

何もかも捨ててジェフリーとともに生きるというコンスエラと駆け落ちの約束をするジェフリーだったが、土壇場になって建築家としての野心に負け、葛藤の末にコンスエラを捨てた。

心から愛した女性を捨ててまで選んだ建築家としての道だったのに、その後のジェフリーには若き日の最高傑作であるヴィクター邸を超える作品を産み出す事が出来なかった。

建築家として大成せず、打算で結婚した妻との仲は冷えきり、満たされない時間を漫然と過ごす日々。12年の月日が過ぎても、愛する女性を見捨てた罪の意識とつのる後悔の念はどうすることも出来ない。

そんなある日、ジェフリーはコンスエラが夫に毒を盛り、その結果姪が死ぬという殺人事件が起きた事を新聞記事で知る。

あの優しいコンスエラが殺人事件など起こすはずがない!

事件を調べ始めたジェフリーだが、しかし調べれば調べるほど彼女への疑念がつのり、そしてその全ての原因は自分の卑劣な行いにあるのではと悩む。

そんなジェフリーの元に・・・。


良いですねぇ、この作品。

ゆったりと展開する情感あふれる上質のゴシック・ロマンミステリィで、ジェフリーの回想で現在と過去が交差するプロットに思わず引き込まれてしまいます。

過去の悔いに生きる些か情けない男が、かつて深く愛し、今でも愛している女性のために取る行動と、自分を裏切った男に救いを求める幸薄い女性の複雑な心境が何とも言えません。

物語のラストシーンが全てを浄化するように切ないゴダード・ミステリィの傑作です。