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佐藤正午「Y」の感想です。

佐藤正午「Y」☆☆☆

出版社に勤める私(秋間文夫)に、ある晩北川健と名乗る男から電話がかかってくる。

北川は私の高校時代の同級生で親友だったと言うが、秋間には彼の記憶が全くない。

どうしても会いたいという北川の頼みを断る秋間だったが、北川は会わなくても良いから北川が書いたある物語を読んで欲しいと語って電話を切ってしまう。

作家志望の男が適当な事を言って売り込んできたと思い込む秋間だったが、後日北川から渡された書き物を読んだ事で、秋間の人生の意味が大きく変わっていく。


ケン・グリムウッドの傑作「リプレイ」と同じようなモチーフの、時間を遡って人生をやり直す男を描いた物語ですが、やり直した人生そのものというより、元の世界における1998年と今の世界の1998年の、北川と秋間とその周囲の人々の人間関係がとても興味深い小説です。

驚くようなトリッキーな展開はありませんが、上手く構成された物語が巧みに繋がり、時間を遡っていく男、彼と不思議な縁で結ばれている男、二人と関わりのある女性の物語に思わず引きこまれてしまいます。

実際の人生はやり直しなど効かない。だからこそ「もしもあの時ああしていたら」という物語は面白く感じるのでしょうね。

時空を超えた「愛」を描いて、派手さはないけど実に味わいが深い作品で、面白かった。