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乙川優三郎 「椿山」の感想です。

乙川優三郎「椿山」☆☆

椿山

「ゆすらうめ」「白い月」「花の顔」「椿山」の4篇の短編を収録した端正な印象を受ける時代小説集です。

何と言っても文章に華が有ります。

但し、作品はエンターティメントというよりも文学っぽい雰囲気で、単純に読んで面白い大衆小説と言うのとは少し違う上質な感じがします。


「ゆすらうめ」は年季があけて自由になった茶屋奉公をしていた女性の物語で、人の幸せとはどんなものかと考えさせてくれるような話。

「白い月」は博奕で身を持ち崩していく男を描いた作品。動機がピュアなだけに辛さを感じます。

「花の顔」は義母の介護で疲れ果てていく嫁の姿が痛々しい話です。嫁の立場に江戸時代の家族制度を感じますが、全体的には現代の介護問題にも通じるような気がします。

表題作の「椿山」は出世することを願う下級武士の青年の物語ですが、藤沢周平の名作「蝉しぐれ」を少し連想するような作品で良かったです。

管理人は軽くて心が浮き立つような小説が好きです。

この作品を読んだ時は、そういう小説を読みたい気分でしたので、少しアテが外れたように思いましたが、作品自体は余韻が残る素敵な時代小説です。