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柚月裕子 「孤狼の血」の感想です。

柚月裕子「孤狼の血」☆☆☆

孤狼の血

昭和63年の広島、広島県警機動隊員の日岡秀一は刑事となり、呉原東署の捜査二課の暴力団係に配属された。

日岡の直属の上司になる暴力団係班長の大上章吾は、凄腕のマル暴刑事として県警内でも有名人だったが、一方でヤクザとの癒着も噂されている曰く付きの人物だった。

寂れた喫茶店で日岡に会った大上は日岡を自分の舎弟のように扱い、パチンコ屋で呉原の暴力団・加古村組の組員・苗代にケンカを売るように命じ、加古村組と対立する暴力団・尾谷組の若頭・一之瀬守孝の元を訪ねると、一之瀬を誘って大上の行きつけの飲み屋で日岡の歓迎会をすると言い出す。

真面目で正義感が強い日岡は、警察官らしからぬ大上の行動に戸惑うが、丁度その頃、加古村組の企業舎弟にあたるサラ金業者・呉原金融の経理担当の事務員・上早稲二郎が失踪し、加古村組の組員が必死になって上早稲を探しているという情報が入る。

加古村組は何故上早稲を探しているのか?

しかしこの事件をきっかけにして、呉原で加古村組と尾谷組の抗争が勃発し、その上部組織を巻き込んだ新たな広島ヤクザ戦争の再燃が囁かれ始める。


骨格のしっかりした警察小説で、実に面白かったですね。

正義感の強い若き刑事・日岡が、違法行為を繰り返す上司の大上に付き合わされていくうちに、ヤクザの事情や人間関係をレクチャーされ、単純な正義感だけでは如何ともしがたい現実にのめり込んでいく流れが妙にリアルに感じられて、作品の中にグイグイと引き込まれていきます。

下手なヤクザよりもヤクザっぽい大上が魅力的なダークヒーローのように描かれ、ある意味古典的ですけど、強い信念を持った人物像が胸を打ちます。

まぁどんな綺麗事を言っても、極道は所詮極道というのが実際のところだと思いますが、この作品の中では古き良き時代の任侠の世界感が描かれていて、ちょっと昔風ながらエンターティメントとして楽しめる作品で、読む前に想像した以上に面白い小説でした。